前回は研究会の活動として、「ハイブリッドクラウドガイドライン」の策定を目指す理由・目的をご説明しました。それを踏まえて今回は、作成中のガイドラインから「データセンター拡張(システム単位で配置/移動、クラウド重視)」するスタイルを一例として取り上げたいと思います。
システムは極力、クラウドに配置
このスタイルでは、システムの配置場所として、「極力クラウドにシステムを配置し、既存システムは順次クラウドへマイグレーション」していくことに主眼を置いています。
オンプレミス、クラウドの両方にシステムを配置するスタイルのイメージ |
利用者の多くがオンプレミスに存在するため、「オンプレミスとクラウド間のネットワークは専用線で接続し、組織外部からはVPN利用のみを許容する」という完全プライベートで構成します。クラウドで利用するサービスは、仮想マシン(IaaS)中心に置き換えるスタイルです。
本スタイル導入の経緯/目的
今回のスタイルサンプルとなったユーザー企業の現状をヒアリングした結果は、以下の通りです。
項目 | 状況 |
---|---|
ITシステムの運用管理 | 自社運用、情報システム部によるチーム体制 |
既存システム環境 | ・仮想環境を利用 ・仮想マシンベースでシステム構築 ・SANストレージを利用 ・物理ネットワーク機器を利用 ・物理ネットワーク機器を利用 |
運用状況 | 各製品のサポートライフサイクルに合わせ、ほぼ定期的に移行計画を実施しており、サポート切れなどのレガシーなシステムは存在していない |
運用課題 | ・物理的な場所、電源、空調などのファシリティ周りのコストおよび管理が負担となっている。更にハードウェア障害等の緊急時対応がIT部門の負担となっている ・ハードウェアサポート切れによって生じる次期ハードウェアの製品比較、機種選定、サイジング検討などが負担となってきている |
本スタイルの選定理由
本スタイルの選定理由としては以下が挙げられます。
- 常に最新のOSにバージョンアップしており、移行ツールとの親和性も確保できていた。
- IaaS中心で、既存システムに大きな変更を加えなくてもクラウドに移行できるシステムが多かった。
- 大半のサーバをクラウドへ移行することで、H/Wライフサイクル管理から解放された。
- アセスメントの結果、オンプレミスとクラウド間のネットワーク使用率がボトルネックとならなかった。
本スタイル実現のため必要なタスク
本スタイル実現に向けて実施したタスクは、以下のようなものでした。
タスク | 具体的な実施内容 |
---|---|
既存環境のアセスメント | Microsoft Asessment Planning Tool を利用したアセスメントを実施 |
クラウド環境の手配 | Azure契約種別の選択および契約 Azure 管理設計 Azure課金管理方法設計 Azure システム構築ガイドライン策定 |
ネットワーク環境の整備 | 専用線ExpressRoute契約、BGPルーターの調達 |
クラウド環境とオンプレミスの接続 | Azure仮想ネットワークおよび対向BGPルーター設定 |
クラウド環境への仮想マシンの移行 | Azure Site Recoveryを利用したIaaSの移行 |
ここからは上記で掲げたタスクのうち、移行タスクにフォーカスしたお話をしたいと思いますが、その前にクラウド移行における4つのアプローチをご紹介したいと思います。
アプリケーションをクラウドへ移行するための4つの手段
一般的に、クラウドへ移行する時には、今まで使っていたアプリケーションに対してどの程度変更するのか、クラウドに最適化するのかによって、以下の図に示す4つのアプローチがあるとされています。
それぞれのアプローチを簡単にまとめると以下のようになります。
移行方式 | 移行内容 | アプリケーション改修の有無 |
---|---|---|
Re-Host(Lift & Shift) | アプリケーションをプラットフォームごと(OS/ミドルウェア)移行する | なし または一部変更 |
Re-Platform(Lift & Shape) | アプリケーションをプラットフォームだけ変更しながら移行する | 一部変更 |
Re-Purchase | アプリケーションをパッケージソフトやSaaSに移行する | 完全移行 |
Re-Architect | アプリケーションを作り直して、クラウドに最適化して移行する | 完全移行 |
クラウド移行の手段として紹介していますが、通常のオンプレミス間の仮想基盤更改であっても同様のアプローチを行っているので、わかりやすいのではないかと思います。
今までオンプレミスの仮想基盤上で稼働していたアプリケーションの移行を検討する場合、まず最初に取るアプローチとしては、最もアプリケーション改修を伴わない「Re-Host(Lift & Shift)」と呼ばれる方式で移行を検討することになります。
ただし、移行対象のアプリケーションに対する調査が不十分であったり、OSやミドルウェアのサポートライフサイクルの観点やクラウドサービスとのAPI連携などに視野を広げた結果、Re-Hostでは賄いきれず、一部変更を加える「Re-Platform」や、完全な作り直しが必要となる「Re-Purchase」「Re-Architect」など全てのアプローチを総動員して対処しなければならない……といった事例も多く見られます。
こうした状況に陥らないためにも、現状を漏れなく調査することが非常に重要です。
次回は、既存環境の調査や移行タスク実行時に必要となるAzureの機能やツールなどをご紹介したいと思います。
ハイブリッドクラウド研究会への参加方法
幹事企業となり分科会をリードしたい企業の方は、以下の情報を添えてhccjp★microsoft.com、およびhccjp★jbs.comまでメールでご連絡ください(「★」を「@」に変換してください)。
●部課長クラスの方の担当者名/部署名/連絡先
●この活動をサポートしていただける役員クラスの方の役職・氏名
また、コミュニティに参加を希望する方はConnpass上のハイブリッドクラウド研究会ページよりメンバー登録してください。 本コミュニティの趣旨に賛同される方は、ぜひ参加いただければと思います。
著者紹介
株式会社ネットワールドMicrosoft ソリューション プリセールスエンジニア
津久井 智浩(つくい ともひろ)
ソリューションディストリビューターであるネットワールドの一員として、お客様に付加価値を提供するというミッションの下、Microsoft製品を中心にオンプレミスからクラウドまで幅広く提案~導入を担当。
趣味はバイク。昼散歩が日課。最近は自分よりもカミさんの働き方改革を何とかしたいと苦悩し、マインクラフトを通して子供と一緒にプログラミングを学びたいと願う40代。3児(2女、1男)の父。