今や、あらゆる企業にとって避けては通れないのがデジタル戦略の策定だ。ITとは縁遠い業界だろうと、もはやデジタル戦略なしで事業ビジョンを描くことは難しい時代になった。
ガートナーでは、ビジネスのデジタル化に迅速に対応するためのIT組織体制として、2つのモードから成る「バイモーダルIT」の概念を提唱している。
ガートナー ジャパンが6月14日、15日に開催した「データ & アナリティクス サミット 2018」では、同社 バイスプレジデントの松本良之氏が登壇。「デジタル時代に対応したバイモーダルのIT組織 ~IT部門の変革をどう進めるか~」と題し、このバイモーダルITの概要から、企業の取り組み状況、今後目指すべき方向性について解説を繰り広げた。
“Amazonテスト”を笑い飛ばせるか?
「デジタルの襲来はさながらゴジラのようです」
――デジタルがもたらす急速な変化について松本氏はこう表現する。それが決して誇張でないことは、世界の企業の時価総額ランキングを見れば明らかだろう。
10年以上前は石油会社や大手製造業ばかりだった時価総額ランキングは、今やその多くがAppleやAlphabet、マイクロソフトといったデジタル企業で埋め尽くされている。たった10年でこれほどまでにトップ10が入れ替わると誰が予想できただろうか。
そんな現状を象徴するような興味深い言葉がある。
“Amazonテスト”だ。
松本氏によると、これは「自分たちの業界にAmazonが参入してきたら果たして勝てるのか?」という問いかけだそうだ。この仮定を一笑に付すことができる企業はそう多くはないだろう。デジタルの襲来は、それほどまでに強いインパクトを伴ってやってくるものなのだ。今や業界を問わず、デジタル戦略は欠かせないものになっている。
こうした状況を踏まえて、ガートナーが提唱するのがバイモーダルITだ。これは、「企業は2つのモードでITにアプローチするべき」とする考え方である。
その背景となるのは、デジタル戦略における経営層の意識の変化だ。
ガートナーの調査によると、経営層が考えるビジネスの優先事項としてテクノロジーへの期待が高まっており、ソーシャルやオンライン、デジタルトランスフォーメーションの推進を急務だと考えているCEOが増えているという。つまり、10年前と比べて、経営層からIT部門への期待が高まっているのだ。
「かつてのIT部門はプログラミングやシステム管理が主な役割であり、そこからサービスマネジメントを重視する工業化の時代に入りました。現在、到来しているのは”企業IT第3の時代”です。顧客とエコシステム、モノ、ITシステムの間にAIなどのインテリジェンスを入れていくことで人とモノを融合する、そういうことが今起きています。これはチャンスなのです」
一方で課題もある。松本氏曰く、「これまでのIT部門の多くはスピードが遅く、まずは予算を確保して……みたいな話になりがち。新技術への対応能力も対策もなく、新しい発想がない」のだという。
しかし、それでは遅すぎる。安全、正確なアプローチはもちろん重要だが、現代においてはよりスピードを重視しなければならない場面は圧倒的に多い。
そこで、バイモーダルITというわけだ。
「バイモーダルITでは、IT部門は2つのモードを持ちます。『モード1』は安全性と正確性を重視した従来型のアプローチ。『モード2』は俊敏性とスピードを重視した探究的なアプローチです」
従来型のモード1が不要というわけではない。「モード1はこれまで通り維持しつつも、よりスピードを高めたモード2を備えて両輪でやっていこう」というのが、ガートナーの提案なのである。
松本氏によると、バイモーダルアプローチへの取り組みは先進企業になるほど進んでおり、日本はまだまだ不十分な状況にあるとのことだ。