あらゆる業界を変革し始めているAI(人工知能)だが、それはメディア業界においても例外ではない。すでにニュースを読むAIアナウンサーや、記事を書くAI記者などが登場しているが、さらに10年後のメディアは、AIでどのように変わっているのだろうか。
そんなメディアとAIの未来について語るトークイベント「10年後のメディアはAIでこう変わる!!」が5月22日、東京カルチャーカルチャーにて開催された。同イベントは、IT Search+にて連載「教えてカナコさん! これならわかるAI入門」を執筆中のNTTドコモ 大西可奈子氏が3月に出版した書籍『いちばんやさしいAI〈人工知能〉超入門』(発行:マイナビ出版)の刊行を記念したもの。ゲストにはニッポン放送の吉田尚記アナウンサーが登場し、約2時間にわたり”メディアとAIの将来像”について刺激的なトークが繰り広げられた。
「これってAI?」の疑問を解消!
大西氏はお茶の水女子大学博士課程を卒業後、NTTドコモでAIの研究開発を行っている。なかでも専門とする分野は自然言語処理による対話AIで、情報通信分野を専門とする唯一の公的研究機関である情報通信研究機構(NICT)にも2年間出向した経歴を持つ。
これまで一貫してAIとの対話を研究し続けてきた大西氏は、AIの世界に足を踏み入れた理由を「子どもの頃から(鉄腕)アトムのようなロボットを造りたかったから」だと語る。
一方、ニッポン放送のアナウンサーとして活躍する吉田氏は、アニメやゲーム、アイドルに加え、ガジェット、インターネットカルチャーなどにも造詣が深いことで知られている。自身の仕事を含め、今後のメディアに大きなインパクトを与えるであろうAIには「非常に興味がある」という。
イベントは、大きく3部構成で進められた。
最初のテーマは「これってAI? 専門家がジャッジ」。世の中には「AI」をうたう製品・サービスが多数あるが、それは本当にAIと呼べるものなのか。そこで、「そもそもAIとは何なのか」という定義について大西氏から解説が行われた。
「AIの定義は曖昧で、定まった基準があるわけではありません。あえて言うのであれば、私は『命令したことしかできない』のがプログラムで、『命令した以上のことができるのがAI』だと考えています」(大西氏)
また、直接AI開発に携わっていない人も、AIとはどんなものなのかについては最低限、知識を持っていたほうがいいと大西氏はアドバイスする。例えば所属が人事部だったとして、「AIに詳しいことを売りにした人が面接を受けに来たとき、面接官がAIを知らないと本当に詳しいのかどうか判断できない」(大西氏)からだ。
コレならAI! を具体例で紹介
さらに大西氏は、実際に某社の営業担当者から、「上司から『この炊飯器はAIを搭載しているからAI炊飯器として売れ』と言われているんですが、この炊飯器ってAIなんですか?」と相談されたケースを紹介した。
AIと名乗っているのに「AIなんですか?」という疑問が出ることを不思議に思うかもしれないが、先述のようにAIの定義は曖昧であり、定まった基準があるわけではない。そのため、”言ったもん勝ち”になっているのが現状なのだという。
ということは、AIをうたっていても実際にはAIとは呼べない製品も世の中にはあふれているということだ。
では先ほどの営業担当者の相談内容はどうなのか。
彼の話だけでは判断できないが、大西氏のAIの定義に当てはめるなら、「プログラムした以上のことができるならAI炊飯器と呼んでいい」(大西氏)ことになる。
そこで吉田アナウンサーが、炊飯器の自動モードを例に挙げ、「温度に応じて最適なご飯の炊き方をしてくれる炊飯器があったとして、『温度と炊き加減を全てプログラムしてある炊飯器』はAIではない、と。そうではなくて、『20度から40度くらいまでの気温しかプログラムしていないんだけど、5度の状況でも最適な炊き加減を提案できる』なら、それはAI炊飯器であるということですね」と的確にまとめ、参加者の理解を深めた。
ここからさらに話は広がり、大西氏が世の中でAIをうたっている製品/サービスをいくつか紹介。それぞれがAIなのか、そうでないのかをジャッジするコーナーへと進んだ。
大西氏がAIだと判断した製品の例としては、パン屋などで使われている自動パン判定機がある。これはセルフレジに設置されたカメラでレジ台に乗せられたパンを撮影・画像認識し、そのパンの種類を判定して料金を計算するというものだ。
なぜこれはAIなのか。
「同じ種類のパンであっても、毎日焼き加減もサイズも微妙に異なります。つまり、コンピュータに対し、事前に『この形でこのサイズならあんパンである』と全ての例について教えておくことができません。しかし、とにかく大量のパンのデータを与えておくことで、コンピュータはプログラムされていないパンについても種類を推定できるようになります。教えた以上のことができているので、これはAIです」(大西氏)
これに吉田氏は「それってすごくデキるバイトじゃないですか!」と感嘆し、「何となく上司がAIを入れたくなる気持ちがわかってきました(笑)」と納得の表情を見せた。