5月23日に開催された「TERADATA UNIVERSE TOKYO 2018」で、「AIが人の行動を変える可能性~「”投信”りんな」は可能か?~」と題するパネルディスカッションが開催された。日興アセットマネジメントの神山直樹氏と、LINEの砂金信一郎氏が参加したディスカッションの模様をダイジェストでお届けする。
AIがチャットボットなどに活用され、多くのユーザーと自然なコミュニケーションがとれるようになってきた。日本マイクロソフトが開発し、同社のLINE公式アカウントで運用されている女子高生AI「りんな」もその1つ。
こうしたAIに、商品やサービスに対する正しい知識を伝え、ユーザーに商品に対する興味を持ってもらい、さらに消費行動に導くことはできるのか。
ディスカッションのテーマはそんな問題意識のもと、日興アセットマネジメントの神山直樹氏と、LINEの砂金信一郎氏が「ユーザーに投資信託をAIがおすすめするシナリオ」を議論した。
神山氏は、日興アセットマネジメントの運用技術開発部長、投資戦略部長を務めた後、大手証券会社および投資銀行においてチーフ・ストラテジストとして日本株式の調査分析業務に従事している。
砂金氏はオラクル、マイクロソフトなどを経て、LINEでスマートポータル戦略実現に向けた啓蒙活動を担当している。
りんなのコンセプトは「会話のきっかけをつくる」こと
モデレーターを務めた日本テラデータの富髙弘之氏はまず、「AIはどんどん進歩し、自然な会話をするようになりました。では、投資信託(投信)のような商品を売ることはできるのか。それを議論していきたい」と切り出した。
株式投資で用いられる自動売買やシステムトレードも機械が媒介するが、そもそものアルゴリズムは人が作成するものだ。これに対し、「”投信”りんな」は、基本的に人の手を介さない。これは、突き詰めると、人は機械を信用するのかという問題にも通じるものとなる。
砂金氏は、りんなの特徴として「聞かれたことに正解を出すのではなく、会話のきっかけを作ることにある」と話す。
「『天気は?』と聞かれたら『晴れ』と答えるのではなく『どっかいくの?』と答える。それが『ディズニーランドに行こうと思っていた』という次の会話のきっかけにつながります。人間のエモーショナルな気持ちを高めることを目的に英才教育を施したのが、りんなです。そんなものが何に役立つの、と思うかもしれませんが、さまざまな事例があります」(砂金氏)
りんなのAIの活用事例としては、ローソンの「あきこちゃん」がある。ローソンの商品でしりとりをしたり、会話を繰り広げるなかで、ローソンの商品のファンを増やすことに役立てている。
会話のなかで、普段のアンケートではできない顧客属性を取得するといった活用もある。会話だけでなく、簡単なゲームすることもできる。
神山氏は、そのようなりんなの機能を使い、りんなの指示のもと「まりも」を育てているという。
砂金氏はそれを受けて「証券の運用や仮想通貨の運用をしていたとして、りんなから『こうしたらよい』などとサジェストを受けたら、AIが支持をして人間がそれにしたがうという世界も将来でてくることも考えられます」とした。実際、りんなは、宣伝などをしていないながらも、すでに日本に600万人ほどの”ファン”がいるのだという。
では、本当にりんなは投信を売ることができるのか。それについて、神山氏は「りんなを知ったときにそれが可能だと直感しました」と話す。
投資の敷居を下げ、投資家に寄り添うAI
「いま国内で投資に対するアンケートをとると、8割の人が投資をしておらず、そのうちの8割が『投資は未来永劫しない』と答えます。つまり、約6割の人が投資にまったく興味がない。ここで問題は、そうした投資に興味のない人にとっては、インターネットなどに溢れている投資情報はまったく意味がないということです」(神山氏)
そこで、証券会社などは、親しみやすいタレントを使ったテレビCMで興味のない層にリーチするが、そうした施策でも、証券口座をつくるところまで進んでも、実際に投資はしない。
投資をした場合でもほとんど知識のないまま行って失敗し二度と手を出さなくなる。
「金融商品を勧めるには、長時間にわたって、その人に合わせて大量のコミュニケーションが必要です。投資初心者でも60歳と20歳では関心が違います。保険に入っているか、預金がいくらあるかでも違います。そうした対応を人手で行うとコスト倒れするので現実には行っていません。そこで、AIを使って相手にカスタマイズした内容をサジェストし、何十時間もかけて納得してくれるようにコミュニケーションをとっていく。会話のなかで、毎日少しずつ情報を集めていって、最終的に『あなたはこんな投信が向いている』とサジェストする。コンセプトとしては作れるなと思ったのです」(神山氏)
LINE自身も2018年1月にLINE Financialを設立し、ライトなユーザー向けに金融商品を展開し始めている。砂金氏はそれに触れながらこう話す。
「(金融商品の契約のために)人の心を動かして同意をとるという観点で見ると、LINEのような会社が手がけることが、心の壁、最初の第一歩を下げられる可能性はあると考えています。どうすれば、投資に対する敷居を下げられるかという問題は、いまこのタイミングで考えておいたほうがいいことだと思います」(砂金氏)
神山氏は、りんなのようなAIは、投資家の心理に寄り添うことも可能になるのではないかと話す。
「投信を持っている人に対して『いま下がっているけど焦らなくていい』『ちょっと落ちついて』といったコメントを出すことができるのではと思います。その人の持っている知識に応じて、違った言葉でアドバイスする。ポートフォリオを計算したりといったことは現実もできていますが、そうした対応はまだできない。りんな的な世界は、そうした対応ができる可能性がいちばん高いのではないかと思っています」(神山氏)
投資のアドバイスをするシステムとしては、ロボアドバイザーがある。ただ、ロボアドバイザーでは、投資家個人の細かなバックグラウンドを考慮した投資の提案などは十分にはできず、状況に応じて投資家に寄り添うコメントを出すこともできない。