5月23日に開催された「TERADATA UNIVERSE TOKYO 2018」で、機械学習やAI(人工知能)のビジネス活用事例や、活用のポイントが紹介された。日本テラデータの森浩太氏による講演「機械学習・AI 技術の業務運用に向けて 〜テラデータの事例を交えて〜」の内容をお届けする。
「AI(人工知能)に対しては多くの人がいろんな期待、考えを持っています。定義もさまざまです。ただ1つの金言があります。それは『AIは次の電気である』というものです。われわれが電気を使うようにごく自然にAIのサービスを使うようになるでしょう」
講演をこう切り出した森氏は、AIの恩恵を誰でも受けられるようになることで、業務へのAIの適用もごく自然に進むという見方を示した。実際、テラデータの顧客でもすでにAIや機械学習のビジネスに取り入れ、成果を出し始めているという。
森氏は、米エール大学で経済学博士号を取得後、調査会社・広告代理店のアナリストを経て、日本テラデータに入社。データサイエンティストとしての役割も担いつつ、主に製造業・通信業の顧客に対して、機械学習を応用した業務改善の提案や開発を行っている。
AIや機械学習の一般的な開発ワークフローは、「課題の共有」「解決策の提案」「プロト版開発」「製品版開発」という流れで進む。データサイエンティストは、データの分析だけでなく、このワークフローのすべてに関わると森氏は話す。
「今回は、開発のなかでも初期段階にあたる、課題の共有や解決策の提案というプロセスを中心にします。この過程でよくトピックになるのが、人工知能とはどういったもので構成されているかということです。これに対して私はよく『ちまたの人口知能はおおむね、分類・選択アルゴリズムでできている』と答えています」
例えば、画像認識では、与えられた画像に写っているものを「猫」「りんご」などと選択的に判別する。また、将棋・囲碁・チェスでは、盤面情報に対して最適種を選択し、自動運転では、周辺の映像・音などに基づいて、操作方法を選択している。
「こうしたAIの活用シーンを見ると、コアとなるエンジン部分には分類・選択のアルゴリズムを備えた分類器が隠れています。AIは、情報のインプットに対して、アウトプットを返すアルゴリズムだということができます。人工知能は『考えているか』か問う声もあります。ただ、考えることは分類に基づいた反応や反射であるかもしれません。『思考』の定義が問題ではなく、性能の向上を背景に実用化が進んでいる状況です」と森氏は説明する。
現在は、機械学習や深層学習をベースにしたAIを使って、ビジネス課題を解決できるアルゴリズムを提供することがAIの役割となる。
その意味で、AIは特定領域に特化した技術ではなく、汎用的な課題に応用できる技術であり、ある領域で得た知見やノウハウを他の領域に横断的に展開していくことも可能だという。
例えば、身の回りで「こんなことができないか」というアイデアがあれば、それを開発者や事業の担当者と共有し、アルゴリズムに落とし込むことで、さまざまなビジネス課題を解いていくことが可能になる。
「実際の開発では、ビジネス課題を分類問題へ置き換え、アルゴリズムを構築していきます。具体的には、まず設計フェーズで、そのビジネス課題は、どのような分類アルゴリズムで解決できるか、つまり、入力と出力は何かを考えます。また、計画フェーズでは、そのアルゴリズムは、現実的な資源で開発できるか、つまり、時間やデータなどの制約がないかなどを検討していきます」
そのうえで森氏は、テラデータが手がけたAI活用のユーザー事例をいくつか紹介していった。
ある国内製造業では、AIを使って「消費者の声」を自動分類を行った。ビジネス課題は、消費者アンケートの結果を手作業で読み込み、仕分け、集約を行っていたことだった。作業に時間がかかるうえ、調査対象を拡大することも難しかった。
そこで、AIを用いて、各回答に対して細分化した「分類タグ」を自動で付与するようにした。また、新規に取得したデータについては、それを使ってリアルタイムにモデルを更新できる仕組みを構築した。
また、デンマークの銀行であるDanske Bankでは、不正な金融取引の防止と早期発見という課題をAIで解決した。同行では、ATMに対して不正な手段で預金を引き出す手口が横行し、月々数千万ユーロの不正損失が発生していた。
そこで取引に関する膨大な特徴量を抽出して、「不正取引判別モデル」を構築。新規取得データを用いてリアルタイムにモデルを更新し、不正金融取引をすみやかに検知できるようにした。
スペインの金融グループBankia Gruopでは、署名における手書き文字の認識にAIを活用している。資産申告書などの手書き文字を含む書類の処理は労働集約的で、膨大な時間と手間がかかっていた。そこで、書類の画像データ化し、画像内の手書き文字・署名を認識して、自動処理できるようにした。
「現状のAIのほとんどは、分類・選択アルゴリズムでできています。ビジネスへの活用で大切なことは、ビジネス上の課題をどのような分類問題に置き換えるかです。そして、入力と出力に何を置くかです」
森氏は「人工知能は、人智を越えた存在であるべきか」というテーマにも触れた。このテーマを考えるうえで役立つのは、タスクの複雑さと資源効率性の組み合わせだ。
複雑なタスクであり、少ない資源で実施できる作業は、専門知識をもった専門家が行えばよい。AIにまかせることはむしろ非効率だ。
一方、実施するのに多くの資源が必要になるものの誰でも簡単にこなせるタスクならAIが向く。事例で紹介した、画像認識、アンケートの分類、不正検知、署名認識、自動運転などはこの領域に属する。
ちなみに、複雑なタスクであり実施するのに多くの資源が必要となるものとしては、将棋や囲碁などのAIがある。研究開発などを除けば、これらをビジネスに適用することは経済合理性がないとも言える。
最後に森氏は「現状のAIのほとんどは、人の作業を自動化・効率化することで価値を提供しています。多くの業務プロセスに、同様の効率化の機会があると考えられます。AIの適用はますます進むでしょう。一方、人智を越えたAIは、現状、実現可能な分野が限られます。現在の業務の見直すなかで、新しい価値を生み出すチャンスを見つけてください」とアドバイスし講演を締めくくった。