SAS Institute Japanは5月18日、年次カンファレンス「SAS Forum Japan 2018」を開催した。ここでは、日本コープ共済生活協同組合連合会(以下、コープ共済連)の共済金企画部 部長 小野広記氏による講演「AIを活用した『共済金の査定業務高度化と業務最適化』へのチャレンジ」の内容をレポートする。
なぜ、支払い査定にAIを使うのか?
コープ共済連は、コープ共済を取り扱う生協と日本生活協同組合連合会(日本生協連)が共同で設立した、共済事業だけを専門に行う生協連合会だ。コープ共済の加入者数は約825万人で、保険料収入にあたる受入共済掛金は年間約1,870億円。共済金の支払件数は約130万件、約657億円を加入者の生活を支えるために支払っている。
小野氏はまず、AIを活用した共済金査定の背景として、コスト構造の変化があると指摘した。2010年に不正請求事件が起こったことをきっかけに、2011年度以降、その対策として物件費、人件費が上昇を続けたという。
「共済支払業務は信頼に基づいています。共済契約者からの自己申告を信頼して共済金の支払いを行うことに比べて、信頼性が低い構造では、査定、調査、契約者対応などを行う必要があり、その分高コスト構造になります」
結果として、JCSI(日本生産性本部)が過去3年間の共済金支払い経験者を対象に行う顧客満足度調査において、2016年度までは連続して第1位だったところから2017年度には第2位に落ちることにもつながった。こうした実情を踏まえ、仕事のやり方全てを顧客視点で組み直すことが求められた。
「問題は、不完全な情報に基づくがための非効率性です。共済金支払業務の場合、不完全な情報というのは『支払対象外の内容で請求している』『とりあえず証明書類を全て添付すれば正しく見てくれるはず』『支払い対象かどうかの判断基準がよくわからない』『支払い対象期間の勘違い』などから発生します。誤った請求が不正請求なのか、不完全な情報によるものなのかがわからないことから、対策が複雑化になり非効率性を招くことにつながります。そこから出た仮説が、アナリティクスライフサイクルこそ、こうした非効率性の削減・撲滅に威力を発揮するのではないか、ということです」
アナリティクスでは、データを活用して統計解析やデータマイニング、機械学習といった手段を用いながらビジネスでより良い意思決定を行う。これは言い換えると、将来のある時点の状態を予測する「Prediction」、将来の一定期間の数や量を予測する「Focast」などの取り組みとなる。つまり、前者では「どういうタイプの請求が不正請求の可能性が高いのか」、後者では「(最適な人員体制のための)将来のある時点の請求件数」を予測するわけだ。
「アナリティクスでは、予測結果に基づいて、直接的に意思決定を行うことがポイントです。そこでは、データから知見を得て適用するまでの一連の活動を実施して初めて価値が得られます。より早く、より高い価値を得るためには、このアナリティクスライフサイクルを高速に回し続ける必要があるということです」
そこでコープ共済連が導入したのが、保険業界向け分析ソリューション「SAS Fraud Framework for Insurance」だ。2016年下期から、査定業務の合理化施策として請求支払システムの改修を実施する一方、AIを活用した不正・不当検知のトライアル分析を開始。2017年上期には、本番運用に進むための業務要件、システム要件を整理して、業務量予測のトライアル分析を開始した。その上で、2017年下期から導入・本番運用に入り、現在までにモデルの高度化と運用ノウハウの蓄積を進めている。