「2020~2021年には、デジタルジャイアント7社のうち5社が自己破壊(Self-Disrupt)を起こし、ECにおける検索作業の30%が画像/音声検索になり、アプリ開発の半数以上がボットの開発になる」
全世界で2000人以上のアナリストを抱えるGartnerにおいて、その最高責任者を務めるピーター・ソンダーガード(Peter Sondergaard)氏の展望である。
6月5日に開催されたメディア向け説明会において、ソンダーガード氏は「2018年以降の重要な戦略的展望トップ10」として以下のようなスライドを紹介した。
2020年には、新製品の95%がIoT対応になるほか、AIの進化により米国の新規求人数が大幅に減るとも予測。Google、Microsoft、Facebook、Amazon.com、アリババらのデジタルジャイアントも、現状の資産がレガシーなものになるため、新たな事業へと軸足を移すか、技術革新を遂げるかして、改めてリーダーシップの機会を創出することになるという。
また、2022年にはインターネット上の情報の半分が間違ったものになるとも紹介。この頃には、誤情報を検知するAIが重要になるとの見方も示した。
デジタルビジネスの構成要素とエコシステムの重要性
こうした大きな変革を迎える中、企業が生き残るには、デジタルビジネスへの対応が不可欠だという。
デジタルビジネスに向けたプラットフォームの5大構成要素として、「インテリジェンス」「顧客」「モノ」「エコシステム」「ITシステム」を挙げ、その主な技術を次のように紹介する。
これらのうち、ソンダーガード氏が特に強調したのが、エコシステムである。
APIエコノミーに参加し、他のエコシステムやマーケットプレイスにつながることで、これまでできなかった取り組みができるようになり、新しい価値を創造できると説明。プラットフォーム・ビジネスへとつながっていくことを紹介した。
また、ITがこれまで以上に重要になることは間違いないが、旗振り役を担うべきは、テクニカル・アーキテクトではなく、ビジネス・アーキテクトだと説明。包括的な視野を持ち、自社のロードマップがどこを向いているのか理解する人材が求められると提言した。
では、このように環境が大きく変わりはじめている中、現時点で最もデジタル革新に成功している企業はどこなのか。
この質問に対してソンダーガード氏は、「残念ながら、未だすべての企業が進行中の段階で、十分な成果を上げたところは見当たらない」と回答。一時、GEが代表企業として話題に上がることが多かったが、全社的な取り組みにはつながっておらず、「デジタルビジネスが難しいことの証明となっている」と補足した。
世界はソフトウェアベースに、日本企業は文化の破壊が必要
ソンダーガード氏は、今後重要視される技術として以下の3つを挙げる。
- インテリジェント
- デジタル
- メッシュ
特にインテリジェントは大きな役割を果たす。今後は、「分析ツールやアプリだけでなく、モノに対しても機械学習やAIが組み込まれるのは間違いない」と説明。すなわち、インターネット上だけでなく、現実の世界もソフトウェアベースで構築されることになる。
こうした中では、従来の日本企業のように、品質の高い製品を開発して大量生産するというやり方は通用しなくなる。必要最小限の機能を持った製品を作り、市場に投入して、反応を見ながら反復的に改善を続けていく、アジャイルなスタイルが求められる。
ソンダーガード氏は、「日本企業には、文化的な側面からも破壊(Disruption)が求められる」と変革を促す。
また、AI投資の回収に関しては、「未着手の企業は取り組み開始から2年以内に実現できると回答しているが、アーリーアダプターとして対応してきた企業は4年かかったと答えている」との調査結果を紹介。目論見と現実の間に乖離がある状況だという。
機械学習の活用状況という点では、「GoogleやMicrosoftなど、バックエンドで動作している例を除くと、やはり金融業界での活用が進んでいる」と分析。バックオフィスのタスクを自動化するだけでなく、フロント画面にも取り込まれ、フィルタイングされた状態でデータが流れてくることなどを紹介した。
加えて、創薬の分野でもゲノム解析などで、量子コンピューターとともに活用が進められているほか、軍事分野でもAIの活用が活発であるという。
ソンダーガード氏は、他の業界でも活用が進むことは間違いないとしたうえで、経営者らに検討を進めるようエールを送った。