ディープラーニングを活用したビジネスが注目されている。さまざまな企業が検討、あるいは具体的な挑戦に乗り出している段階だが、そこで問題になるのが人材不足だ。SIerと組むにしても、発注側に何の知識もスキルもないのでは話が一向に進まない。
そうした日本の現状を打開すべく、ディープラーニングの情報発信・人材育成に取り組んでいるのがマイクロソフトだ。2017年6月にPreferred Networks社とディープラーニング・ラボを設立し、全国でセミナーを開催するなど精力的に活動している。
本稿では、同ラボの中心メンバーである日本マイクロソフトの廣野淳平氏に、日本におけるディープラーニング人材の現状と展望を伺った。
人材育成の必要性を感じてラボを立ち上げ
いち早くディープラーニングの可能性に着目し、3年ほど前からディープラーニングを触り始めた廣野淳平氏。サーバ製品部などを経て、現在は日本マイクロソフトで深層学習事業開発マネージャーを務める人物だ。
業務ではディープラーニングを用いたプロジェクトを推進しているというが、多くのプロジェクトがPoC(Proof of Concept)段階で終わってしまい、ディープラーニングを本番環境、実ビジネスで活用している事例の少なさに問題意識を感じていた。
「第3次AIブームをけん引する存在であるディープラーニングが盛り上がる一方、それを実用化するための壁は高い状況でした。今回のAIブームを一過性のものに終わらせないためにも、ビジネス側と開発側両方での人材育成の必要性を強く感じていました」と話す。
そこで廣野氏がマイクロソフト側の担当として、Preferred Networksなどディープラーニングの開発経験が豊富な複数の企業と協力して立ち上げたのがディープラーニング・ラボだ。ディープラーニングを中心とした先端技術を実際のビジネスへ応用すべく、技術とビジネスの両面に精通する人材が集まるコミュニティである。
Microsoft AzureとChainerを主要なプラットフォーム/フレームワークとして、開発事例や技術動向の情報発信を行っている。
ディープラーニングをエンジニアが使いこなす時代に
廣野氏がディープラーニング・ラボでやろうとしていることは、AIの未来を見据えた種まきだ。
「現在、ディープラーニングは研究者やデータサイエンティストのものですが、これから数年で一般のエンジニアにも爆発的に広がると予想しています。マイクロソフトは、この波を後押しすることが重要だと考えており、テクノロジーの難易度を下げて多くのエンジニアにとってディープラーニングを使いやすくする取り組みを行っております」
廣野氏はディープラーニングの広がりを、かつてのOfficeソフトに例えて話す。
「かつてコンピュータは、数字の計算や並び替えをするのにもプログラムを書かなければいけない時代がありました。しかし今はExcelを使って誰でも簡単にできます。その流れがディープラーニングにも起こるでしょう」
ディープラーニングの進化はとても速い。
現在起きている第三次AIブームのキーワードは”オープンイノベーション”。過去、最新の研究成果は学会や専門誌で公開されていたため、物理的・時間的に研究成果へのアクセスが制限されてきた。それに対して、ディープラーニングの研究成果はarXiv.org や GitHubにコードとデータ付きで公開されている。透過的な情報アクセスが世界レベルでの協働とイノベーションを加速している。
以前であれば大企業が独自に研究を進め、公開されることがなかったようなコアな情報さえも公開され、誰もが参照できるようになっている。マイクロソフトも非常に多くの論文を公開しており、ディープラーニングを活用したい企業に対して競争領域の再考を迫っている。
研究領域での進化は急速、重要なのは「自社ビジネスの活用方法」の見極め
これからディープラーニングの研究者を採用して最新の研究活動を行っていくことは一般の企業にとってとても困難なことだ。では、企業はどうすればよいのだろうか。
「オープンイノベーションで最新の研究成果が公開されることを前提に、いかにそれを素早く自社のビジネスに活用できるかに注力すべきです。育成すべき人材は、ディープラーニングの最新技術を自社のデータとビジネスに応用できる人材です」と廣野氏は話す。
そのためには、ビジネス側もエンジニア側も、ディープラーニングという技術の限界と、ディープラーニングで何ができるのか、できないのかを理解する必要がある。
ディープラーニング・ラボは、そうした知見を広げるためのコミュニティでもあるのだ。