4月19日に都内で開催された「China Internet Day」(日経クロストレンド、日本マーケティング協会主催)に、中国テンセント(騰訊)のシニアディレクター、ベニー ホー(Benny Ho)氏が登壇。「中国市場のトレンドとインサイト」と題する講演を行い、中国市場やインバウンド向けのマーケティング戦略のポイントを紹介した。
テンセントは、メッセージングアプリ「QQ」と「WeChat」で有名な、中国最大手のIT企業と言えるだろう。その他にも、ポータルサイト、Eコマース、オンラインゲームなどのサービスを提供している。
ホー氏は、テンセントのインターナショナル ビジネス グループでビジネス開発担当シニアディレクターを務めている。着任前は、インドネシアでテンセントのミュージックアプリ立ち上げや、イタリアのカントリーマネージャーとして「WeChat(微信)」を立ち上げに関わった。また、マッキンゼー&カンパニーの経営コンサルタントとして、多国籍企業の中国進出戦略を担当し、ロケットインターネット香港やフィリピンLazadaの共同設立した経験がある。
ホー氏はまず、中国市場の現況について、人口13.8億円、インターネット普及率53%、平均接続速度5.7Mbps、モバイル浸透率78%、モバイル通信比率76%、モバイル通信の平均速度8.9Mbpsといった数字を挙げた。
中国と言うとモバイル先進国というイメージがあるが、人口が日本の10倍と多いこともあり、インターネットやモバイルの普及率や接続速度は日本から大きく遅れているのが現状だ。
「日本に比べてインターネットはまだ発展途上です。ただ、モバイルについては日中で格差が少なく、ツールはモバイルがメインです。モバイルファーストで取り組みを進めています」(同氏)
そんななか、2017年の売上高が前年比56%増の2378億元(約4兆円)と猛烈な勢いで成長を続けているのがテンセントだ。時価総額はAlibaba、Facebookを抜き、Google(Alphabet)、Amazonに次ぐ3位で、インターネット企業としてはアジアNo.1企業だ。ホー氏によると、テンセントの強みは、1社でインターネットサービスの大部分をカバーしていることにある。
「通常はSNS、メッセージング、メール、動画配信、ニュース配信、Web閲覧など分野ごとに異なるアプリがありプレイヤーが異なります。テンセントはWeChatやQQなど関連サービスで分野ごとにNo.1のアプリを展開しています。WeChatとQQのMAUはそれぞれ10億ユーザー、7億8300万ユーザー。モバイルインターネットの接触時間のうち、テンセントのサービスの利用時間は55%に達します」(同氏)
ホー氏はテンセントがマーケットのオポチュニティをどう捉えているかについて、インバウンド(中国国内)、アウトバウンド(中国国外への観光客)、クロスボーダーという3つの視点があると説明した。
インバウンドは、経済成長率の鈍化が見られるものの、国内消費は堅調な伸びを示しているという。2015〜2016年の消費成長率は10.5%、特に、嗜好品消費の成長率は2012〜2016年で13%の成長率を示している。経済が発展するなか、必需品から嗜好品へのシフトが加速している状況だ。
「3年後の2021年までに中国の国内消費は180兆円プラスされ600兆円に達する見込みです。この成長する180兆円の分だけでも、ドイツ、英国、フランスの国内総消費より大きい規模です。成長の背景には3つの消費動向の変化があります。中高所得者層の台頭、世代交代、ECの台頭です」(同氏)
2015年に5500万世帯だった中高所得者世帯は2030年に2億世帯になる見込みだ。また、2011年に70兆円だった都市在住の若者(18〜35歳)の消費市場は2021年までに260兆円に拡大。EC化比率も2010年の3%から2020年には24%を占めることが見込まれている。
世代交代については中国の一人っ子の影響も大きい。富の分配は親から複数の子、さらに複数の孫へと増えていくのが一般的だが、中国の場合は、両親と両祖父母の富が孫に集中する。未婚率も10年で4%から21%に上昇し、必需品よりは、ファッション、エンターテインメント、旅行といった嗜好品の消費が大きく拡大している。
各種アンケート調査からは「余裕があるならより有名なブランドを買う」「余裕がある限り最も高くて品質の良い商品を買う」といった消費性向が明らかになっている。実際、2016年の中国における高級品売上高は750億ドル(約8兆円)で、高級品に費やす年間平均額は1.1万ドル(約121万円)にも達する。
「ブランドを目的とした買い物であるため、ブランドを知ってもらうことが何より重要です。知らないブランドを中国人に買ってもらうことはきわめて難しいと考えてください」(同氏)
アウトバウンドでも中国の存在感は大きい。海外旅行市場は2021年までに45.8兆円の市場になる見込みだ。一方で、中国人のパスポート所持率は8%で、日本の24%、米国の42%と比べてもまだまだ低い。団体旅行から個人旅行へのシフトが起こっており、海外旅行市場は加速している。旅行の目的が「ショッピング」であることが多いのも特徴だ。日本への外国人観光客でも中国がダントツトップで、依然として強い存在感を放っている。
「マーケティングには、認知(Awareness)、購入検討(Consideration)、来店・購買(Transaction)、会員化・ファン醸成(Loyalty)といったアプローチがあります。日本を訪れる中国人は平均して7日間滞在しますが、多くの場合、訪日前に買うものを決めています。また、中国ではFacebookやTwitter、Googleなどは利用できません。そのため、購入前と購入後にいかにアプローチするかが重要になってきます」(同氏)
クロスボーダーは、中国人の消費が海外旅行によるショッピングにとどまらなくなり、ネット通販や「越境EC」と呼ばれる購入形態に移行していることを指している。”爆買”のように、個人が知人に依頼して外国製品を購入するケースを「代購」と言う。
それがインターネットの普及によって個人が海外のECサイトから直接商品を買う「海淘」(海外EC)に移行した。そして最近は、ECサイト上で外国語を読解することの不便さもあって、個人が中国のECサイトから外国製品を買う越境ECが広がっている。
「2017年の越境ECの利用者は1.8億人で、越境EC売上高は10兆円、前年比27.6%で成長しています。越境ECを利用する最大の理由は、ニセモノではなくホンモノを手に入れることと、コストパフォーマンスの高さからです。購入される商品は、ビューティー・個人ケア、ベビー用品、フード・サプリメント、アパレル・靴・帽子、デジタル製品などが上位を占めています」(同氏)
越境ECで利用する国と商品を国別にみると、トップは米国で、商品はサプリメントや幼児向け食品、女性ファッションが多い。2位は日本で、オムツとビューティー商品が多くを占めている。
また、3位は韓国で商品はビューティー商品。さらにイギリスとオーストラリアが続き、幼児向け食品や子供用ミルクパウダー、大人用ミルクパウダーなどを買っている。
このように、特定の欲しいブランドを国をまたいで購入しているというイメージだ。
「中国の新世代の消費者は、若く、経済的に余裕があり、デジタルネイティブであることが特徴です。大きく、ファッション、健康、レジャー、旅行をお金を使っています。ブランドロイヤルティは非常に高いのですが、ブランドの候補そのものは限られています」(同氏)
日本の対中国越境ECは30%以上の伸びを示しており、海外旅行も非常に好調に発展している。最後にホー氏は「中国市場を攻略するには、インバウンド、アウトバウンド、越境ECという3つの視点から、どんな対策を講じていくかをしっかり分析し、検討することが重要です」と述べた。
具体的なソリューションは、続いて登壇したテンセント IBG ジャパンビジネスマネージャー中島治也氏が解説した。テンセントでは、2017年から、広告、決済、公式アカウント、クラウドを組み合わせた日本企業向けの対中国マーケティングソリューション「テンセントブランドソリューション」を提供している。
WeChatなどを使って認知(Awareness)、購入検討(Consideration)、来店・購買(Transaction)、会員化・ファン醸成(Loyalty)までを一貫して提供できるのが特徴だ。
例えば、Awarenessでは、潜在顧客がいる媒体を探したり、潜在顧客に絞って訴求したりできる。Considerationでは、広告コンテンツの作成や、公式アカウントでのフォローなどを支援。Transactionでは決済プラットフォーム「WeChat Pay」などを使って、オンライン、オフラインでの購買を支援する。決済を動線として、自然に会員化することもできるという。
アプリの代替としてのミニプログラムも人気だ。WeChatのインタフェースに統合されており、ダウンロードせずに利用でき動作も軽快だ。2018年1月時点で58万のミニプログラムがリリースされ、MAUは1.7億を上っているという。
ブランドソリューションの成功事例としては、スターバックス コーヒーが行った2016年のクリスマスキャンペーンがある。広告への露出から、クーポン受け取り、来店後の決済と公式アカウントの自動フォロー、情報配信による来店促進などを行った。CTRは3倍、クーポン利用率は5倍となり、ユーザーシェア率は50%に達した。
最後に「中国市場をどう攻めるのか、テンセントはプラットフォームを提供することで具体的な方法を提案し、日本企業を支援していきたい」と日本企業に向けてアピールした。