3月7日、製造業のベストプラクティスを考えるセミナー「Product Lifecycle Management Forum 2018」が都内にて開催された。製品開発部門や製造部門、調達・購買・品質保証部門のマネジャーなどが参集した同セミナーでは、PLM(Product Lifecycle Management)を活用した製品設計の現場における課題解決や、イノベーションを創出するための方法について、有識者らによる講演が行われ、参加者たちは熱心に耳を傾けていた。
本稿では、PTCジャパン ソリューション戦略企画室 ディレクター フェロー 後藤智氏によるテーマ講演「製造業のデジタル変革を支えるPLMのベストプラクティス」の模様をダイジェストでお届けする。
2,000万円相当の無駄工数!?
「製品開発のデジタル変革は、昭和60年代から平成10年代にかけて、すでにやってきたことだと思われているシニアの方は多いのではないでしょうか?」――登壇した後藤氏は、こう会場に語りかけた。
今から20年ほど前、3DCADを導入することで、ものづくりは最大3割の時間を短縮できるという話が盛り上がった時代があった。「一回り上の先輩方は非常にフットワーク軽く飛びつき、かなり実践していた」と後藤氏は振り返る。
だがその後、景気の後退や、いわゆる「2007年問題」、建設業界の人材不足問題などの影響を受け、製品開発におけるデジタルイノベーションは停滞期に突入した。
「今、かつての”3Dデータ大変革”を経験していない世代が増えています」と後藤氏は説明する。同氏は昨年1年間、産業機械系や製造業といった複数の企業で、自身より一回りほど下である40代前後の担当者を中心にヒアリングを実施した。そのなかで気になったのは、彼らが3Dコンカレントエンジニアリングのメリットを先輩から教わっていないことだ。
後藤氏は、設計者が50人~100人規模で所属する中堅企業を中心に、全ての図面とモデルを3Dでまとめた場合と、2Dと3Dを併用した場合の工数を尋ね、組合平均の時給単価をかけてざっと計算してみたのだという。その結果、年間約2,000万円相当の無駄な作図工数が発生していることが明らかになった。
「あれだけ先輩たちがやってきたのに、多くの製造業が学んでいないように感じて、個人的に悶々としました。2,000万円もあれば、新しい事業や人材に投資できたかもしれません。そこで私は、平成最後の総決算として、IoT時代を担う新しい世代に、デジタルによるものづくりの実体験を伝えたいと思っています」(後藤氏)
同氏は「平成30年の今、CADの活用ルールが無法地帯になっている」とも指摘する。2DCAD・3DCAD・Excelの関係性はどうなっているのか、人によって使い方にばらつきはないのか、事実上、無秩序な設計プロセスになってしまってはいないかなど、曖昧な部分は多い。
また、昨今では「働き方改革」を標榜する企業も増え、残業の削減が推奨されている。もちろん技術系の社員も対象となるが、実際に仕事が減るわけではないのであれば、”隠れ残業”が増えるだけだ。デジタルを活用した効率化が、こうした課題の解決の糸口となる。
後藤氏は「『設計3D改革』や『コンカレントエンジニアリング』など、言い古された言葉のように思われるかもしれませんが、ここで改めて”再挑戦プログラム”を描いてみませんか」と呼びかける。