2月19日~20日に都内で開催されたガートナー ジャパン主催のイベント「カスタマー・エクスペリエンス サミット 2018」では、ガートナー ジャパン リサーチ ディレクター、川辺謙介氏と、ガートナー リサーチ ディレクター、タッド・トラヴィス氏が、「日本の営業組織に求められるイノベーションを考える」と題した講演を行った。

日本の営業組織とCRMアプリ利用状況

まず最初のテーマとして、日本の営業組織と、CRMアプリケーション利用における特徴について、米国と比較しながら語られた。

ガートナーの調査によると、日本企業においてCRMシステムを利用している部門のうち実に6割近くが「営業」と呼ばれる組織であることがわかる。この数字についてトラヴィス氏は、「北米では状況が異なります。CRMシステムを利用している部門で最も多いのは顧客サポート部門であり、その割合は35%に達しています」とコメントする。

また、専任のマーケティング部門長(CMO)を置いている日本企業は全体の1割強に留まっており、営業とマーケティングを兼ねているケースが多い傾向にある。

マーケティング部門長(CMO)と組織の成長/出典:ガートナー(2018年2月)

「米国の企業とはだいぶ様子が違うようです。北米ではマーケティングは非常に重要だと見なされており、認識できているだけで17,000人ものCMOが存在しています。数からしても、違いは明らかです」(トラヴィス氏)

ガートナー リサーチ ディレクター、タッド・トラヴィス氏

一方で、CRMアプリケーションの利用割合の推移を見てみると、この5年ほどは2割前後で推移しており、「米国ではCRMに対する投資は続いていて、ほとんど止めることはありません。常に16%ぐらいの前年比成長率でCRMへの投資が成長しています」とトラヴィス氏)は説明する。

さらにCRMシステムへの投資割合を見ると、日本ではカスタム開発がまだかなり多く4割を超えているものの、パッケージ・SaaS・ASPも増えて57.2%になっている。対する米国では、59%が既にクラウド関連への投資に移行している。

そして国内で実施されたアンケート結果(複数回答可)では、CRMシステムを利用する際の課題や躊躇する典型的な理由として、「費用対効果が不鮮明(42.2%)」「現場が機能を使いこなせない(35.9%)」「導入コストが高い(27.8%)」「社内体制が不十分で現場が利用しない(23.3%)」「リーダーシップの欠如(21.0%)」の5つが明らかになったという。

この結果についてトラヴィス氏は「北米も欧州もほとんど同じ」とした上で、「ただし、欧米ではデータの質を高めることや、ツールを活用して課題に応えることを掲げています」と補足した。

SFA活用を進めるのに必要なのは?

続いて、「日本企業がSFA(Sales Force Automation:営業支援)アプリケーションを利用する上での課題はどこにあるのか」に話は移る。ガートナーの調査によると、日本企業のSFAアプリケーションに対する期待値は根強く高いのだという。

グローバル調査において「SFA製品を購入する理由」を尋ねると、「顧客関係・サービス改善」「業務効率改善」「ビジネス・プロセスの成果と俊敏性向上」「売上の向上」といった回答が多い。

「特にトップの回答では、顧客関係の改善のためや売上増加のためというものが目立ちます。しかし、ツールというのは社内のプロセスマネジメントには向いていますが、必ずしも売上やコストに関する課題の解決に直結しない面もあります」(トラヴィス氏)

また川辺氏は、「グローバルでは特にビジネスプロセスの改善への期待が感じられます。これは、日本企業にはあまりなじみのない感覚かもしれませんが、プロセスの改善によってイノベーションが見えてくるかもしれません」とコメントした。

ガートナー ジャパン リサーチ ディレクター、川辺謙介氏

実際、最近の北米企業ではビジネスプロセスに一貫性を求める傾向が見られるという。例えば、大勢の営業スタッフを雇っても売り方がわからなかったり、非効率的なプロセスを取り入れたりしていては、リスクが高まる。そこでSFAツールを導入し、プロセスを標準化して適切に管理しようというわけだ

ただし、その実現には課題もある。SFAの活用が進まない主な理由には、「報告」のためのデータ入力が必要なことや営業プロセスの複雑化、フィードバックが得られないことなどが挙げられる。

「日本の企業によくあるのが、何のためにSFAツールを活用しているのか現場がよくわかっていない結果、”やらされ感”ばかりが募り、士気が上がらないという現象です」(川辺氏)

トラヴィス氏も川辺氏の意見に同意し、「私がSFAを担当して16年ほど経ちますが、この状況は変わっておらず、これはグローバルでの課題でもあります」と続けた。

「モバイルデバイスの活用や営業管理者による営業担当者へのサポート、小さく始め、実績を積み上げることの必要性などを、私も地道に提案しています。しかし企業幹部になると、テクノロジーへのハードルもあり、なかなか一歩を踏み出すきっかけがつかめないのでしょう」(川辺氏)

トラヴィス氏も「米国でも、慣れているものに頼りがちとなり、新しいものを受け入れない状況はあると思います」と見解を示す。

なぜ、このような状況になっているのだろうか。

理由としては、旧来のやり方にこだわりすぎていることや、営業部門(長)の影響力が大きすぎること、意思決定者が複数で調整がつかないこと、事なかれ主義に陥り、危機感が欠如していること、若手の人材不足や人材の高齢化などが考えられる。

川辺氏は「私が一番気にしているのが、目先の課題にとらわれすぎて、長期的で合理的な計画が立てられないのでなないかということです。こうした状況を打破できるイノベーションを考えないといけないのではないでしょうか」と会場に問いかけた。