2月19日から20日に行われた「ガートナー カスタマー・エクスペリエンス サミット 2018」では、ガートナー リサーチ リサーチ ディレクター サンディ・シェン氏が「WeChatについて知っておくべきこと」と題した講演を行った。本稿では、講演内容を基にビジネスにおけるソーシャルメディア活用について読み解きたい。

「サービスプラットフォーム」としてのこだわり

中国テンセントが提供する「WeChat」は、月間アクティブユーザー数ベースでは世界第3位のソーシャルメッセージアプリである。アプリ自体は目新しいものではなく、米WhatsAppや韓国のカカオトークのような競合のアイデアを借りたものだ。だが、今ではFacebookやLINEまでもがWeChatから学ぼうとしているという。

「WeChatの戦略は、サービスの品ぞろえを充実させるのではなく、サービスプラットフォームを提供することに重きを置いている」とシェン氏は説明する。メッセージのチェックだけでなく、買い物、銀行の残高照会や支払い、タクシーの予約など、さまざまなサービスを「WeChatの中で」使えるのが特徴だ。

多くの消費者にリーチできるため、企業にもWeChatは人気だという。サービスのなかには、「コマース」「ウォレット」「マーケティング」「顧客サービス」がある。

WeChatが提供する機能/出典:ガートナー(2018年2月)

WeChat自体はコマース事業を運営せず、各店舗がサードパーティ製のプラグインを使い、物販事業を展開している。ウォレットは、ユーザーが銀行口座番号やクレジットカード番号をあらかじめ登録しておけば、現金を使わずに支払いができるというもの。また、企業内の生産性向上を支援するものとして「Enterprise WeChat」も紹介された。

WeChatが人気なワケ

WeChatの月間アクティブユーザーは9億人、毎日のメッセージ総数は平均380億件、ユーザー1人あたりの毎日の平均利用時間は66分、毎日のアプリ起動回数は10回以上になるという。

中国では、なぜこれほどまでに多くの人が頻繁にWeChatを使うのだろうか。なぜWeChatはサービスが充実しているのか。シェン氏は自身の体験を交えながら、人気の理由は「WeChatがモバイルアプリよりも優れた顧客体験(CX)を提供しているから」だと解説した。

ガートナー リサーチ リサーチ ディレクター サンディ・シェン氏

以前のシェン氏は、取引している銀行のモバイルアプリを使っていた。ある時、アプリのアップデートを行ったところ、口座へのログインができないトラブルに見舞われた。コールセンターに電話し、自分が誰かを説明した後のオペレーターへの接続までに5分、どんな問題が起きているかの説明にさらに5分を費やしたが、オペレーターの回答は「状況を調査し、5日以内に回答をする」というものだった。

がっかりしたシェン氏は、その銀行が提供しているWeChatの顧客サービスを試してみた。すると、その銀行にメッセージを送っただけにもかかわらず、5分以内に明確な指示を含む回答が返ってきた。さらに、その指示に従ったところあっけなく問題を解決できたのだという。問題解決に要する時間が5日から5分に短縮されたわけだ。「だから使いたいと思う人が多い」とシェン氏。