今や、広報やマーケティングの一環として、ソーシャルメディア を利用する企業も少なくありません。企業でSNSを運用するメリットとは何でしょうか?もしかしたら、「他社もやっているからなんとかなく」という企業が多いかもしれません。

本連載では、企業の公式ソーシャルメディア・アカウントを運営・検討する方を対象に、日本IBMの安原美理さんが、企業アカウント運営における心構えや目的などを、事例を交えてご紹介します。

第3回目は、企業がSNSを使うための温度感について深掘りします。

炎上リスクから社員を守るソーシャルメディア活用のためのガイドライン

IBMには、ソーシャルメディアを使うときのガイドラインが2つあります。ひとつは社員の行動規範を定めたBCG(ビジネスコンダクトガイドライン)、もうひとつは、ソーシャルメディア活用のお作法を記したSCG(ソーシャルコンピューティングガイドライン)です。SCGに関しては2005年に公開しましたが、企業として社員のソーシャルメディア活用をルール化したのは先進的なことでした。

例えば、「実名を使い、一人称で発言する」「個人の意見であることを明記する」「けんかを仕掛けない」など、当たり前のことではあるのですが、このガイドラインを守っていれば、自由に且つ安全にIBM社員としてのソーシャルメディアを使った情報発信ができるのです。

ソーシャルメディアは、もともと人と人がつながるためにデザインされたツールです。そのため、IBMとしても社員一人ひとりの情報発信を会社として応援するというのが基本スタンスとなっています。

公式アカウントは何のためにある?

では、公式アカウントは何をするかというと、「ソーシャルメディアを通じてIBMブランドを人々の生活に溶け込ませる」ことをミッションとしています。そのためにソーシャルメディア上のエンゲージメント、ブランドに対する好意度、マーケティングの3軸に貢献するための活動をしています。

つまり、できるだけ広い範囲に向けてブランド好意度を上げる活動をするブランディングと、特定のターゲットに向けて深くコミュニケーションをするマーケティングという、時に相反する活動のミッションを両立させるのがIBMの公式アカウントに求められています。また、各事業部のメッセージや戦略を整理してまとめあげ、文字や画像、動画などの表現方法を考えるのが公式アカウントの運営担当者の役割だと思います。

孤独になりがちな「中の人」業— 企業ソーシャルメディア運用のコツとは?

企業公式アカウントの運用担当者のことを「中の人」という呼び方をしますが、この「中の人」業というのは想像以上に大変で神経を使う仕事だということを身をもって感じています。

IBMについてどんなことがつぶやかれているか、どんなコメントが付いているか、どれだけの人が反応しているかということ毎日チェックしながら、発信する内容やタイミングについて確認することが山ほどあります。

また、投稿に対して反応が大きければ自分自身のことのように嬉しく、時にはコメントに傷つくことだってあります。そのようにソーシャルに関わる仕事は、運用担当者の感情と結びつきが強くなるため、多くの企業で運用が属人化してしまい、担当者の異動や退社に伴って運用停止になるということに悩んでいるかもしれません。

そこで大事になってくるのが、運用負荷を分散するチーム体制です。「『中の人』はこんな人」という具体的な人物像を設定して、チームの誰が投稿しても同じトーンや言葉遣いで発信できるようにしています。人によって面白いと思うポイントはさまざまですが、このようにチームで共通の「中の人」のイメージを持つことで、「この人ならきっとこんな切り口で伝えるよね」といった会話が編集会議でできるようになります。

また、データをみながら、反応のよかった投稿から内容とプラットフォーム特性の両面での「勝ちパターン」を見つけて組み合わせることが、パフォーマンスの観点と運用担当者の負荷軽減の観点で公式アカウントの運用のキモだと思います。

「中の人」の事例として、BtoC企業の事例をよく聞きますが、それはビジネスにつながった成果を表しやすいからだと思います。例えば、お菓子メーカーが「新商品発売!限定さくら味」と公式ツイッターでツイートすれば、即売上につながるかもしれません。ところが、IBMのようなBtoB企業の場合、ソーシャルメディアからの情報発信が売上に直接つながることは、そう多くありません。

一般的には、BtoB企業のソーシャルメディア活用は費用対効果を証明するのが難しいとされています。ですが、そういった背景と違いを理解しつつも、仮説検証を繰り返しながら地道に効果を示していくしかないのかなと思います。

そのためSNS運用は、一投稿一投稿を丁寧に考えて作る、いわば職人仕事のように感じています。

著者紹介


安原美理 (YASUHARA Miri) - 日本アイ・ビー・エム株式会社
デジタルコンテンツ・マーケティング - SNS担当

日本IBM 公式ソーシャルアカウントの中の人。AIを使いこなすためのニュースメディア「THINK Watson」の編集部として最先端の事例やキーパーソンのインタビュー、「やってみた」レポートなどを通じて、旬のテクノロジー情報を発信中。

■IBMオウンドメディア : THINK Watson