ビジネスへのAI導入が急ピッチで進められているが、すべての企業が成果を出しているわけではない。導入してみたものの目に見える成果が出なかったり、導入段階でつまずいたりする企業がまだまだ多いのが現状だ。
AI導入の成否を分けるのは何なのか。今後、AI時代においてどのように人材を育成していけばいいのか。AIプラットフォームを提供するGoogleの大薮氏、下田氏に、AI導入のノウハウを聞いた。
画像、音声、動画 ― これまで使えなかったデータが活きる
――企業のAI活用の現状について教えてください。
大薮氏 : GoogleではAI(機械学習)を活用するためのプラットフォームやサービスを提供しています。ビジネスでの活用を考える時には、まずAIは万能ではないというところから始めるといいのではないかと思います。
前提としてAIはコミュニケーションやサービスを構築するための「部品」なんです。利用シーンによっては便利ですが、必ずしも使わなくてもいい。利用シーンの見極めが非常に重要で、ルールベースのプログラムでもニーズを満たせるならそれでいいのです。
今はどう使えばいいかわからないというお客様も多いのですが、活用事例が出てくれば利用シーンのイメージももっと具体的になり、活用がどんどん広がっていくでしょう。
下田氏 : ビジネスにおけるAIの現状をお話すると、以前は使われなかったデータを活用しようという動きが出てきています。画像や音声、言語といった数値化されていないデータが、技術の進化と機械学習で活用できるようになっているのです。
コールセンターを例に挙げましょう。コールセンターではお客様とのやりとりが音声データとして残っています。これを使うことで、オペレーターの教育や応対品質の向上、場合によっては自動応対も可能になるでしょう。実際にPeach AviationではコールセンターでAIによる応対自動化の実証実験を行っています。
大薮氏 : 海外事例になりますが、ハイパーコネクトという企業がAIを活用した音声認識と翻訳を組み合わせたチャットアプリをリリースしており、全世界で1億ダウンロードされています。他にもチャットボットにコミュニケーションを任せる事例が銀行などで出てきており、オペレーターの稼働を減らしたり、応対品質を上げたりといったことに成功しています。
グーグル・クラウド・ジャパン マシンラーニングスペシャリスト 大藪 勇輝氏 |
下田氏 : BOXという企業はファイル共有サービスを提供していますが、そこでは画像に何が写っているかをラベル付してユーザーが検索しやすいようにしています。例えば「青い服」などで検索すると青い服が写り込んだ写真が出てくるわけです。これはGoogleフォトの機能を使っています。
また、予防保全なども画像認識技術を用いたAIでできるようになっています。食品の品質検査のほか、インフラ事業でも事例が出てきています。
――AIを活用するのに適した業界や業務はありますか。
下田氏 : 適した業界や業務というよりも、アイデアがあるかどうかだと思います。道具は揃い始めています。アイデアとデータがあれば、AI活用にトライできるでしょう。
適していない業界や業務というと難しいですが……少なくともデータがないとAIは活用できませんから、IT化されていないものは向いていないでしょう。デジタルから遠いところにある業界ほど難しいと思います。
大薮氏 : 業界というよりも組織としての考え方の話になりますが、例えば、犬の写真をあるAIに見せたとして、AIはそこに写っているものが「犬」である可能性が99%だ、という形で応答します。つまり、AIは確からしさを返しますが、100%の精度が出るわけではありません。完璧な処理をこなすものと信じて導入しようとすると厳しいですね。
下田氏 : トラディッショナルな日本企業はオペレーションを100%置き換えたがることが多いです。そうではなくて、100%を達成することは難しいと知った上でビジネスオペレーションを変えていける許容性が必要です。
AIはあくまでツール、目的に合わせてデータの設計を
――ビジネスにAIを組み込む際、どのような考え方で進めればいいのでしょう。
下田氏 : テクノロジードリブンで始めようとするとうまくいきません。AIはあくまで道具でしかなく、ビジネスのボトルネックが何かをあぶり出さないと使えません。
ボトルネックになっている部分に機械学習を使うことが本当に効果のある話なのか、手持ちのデータで実証実験をして仕組み化していくのです。
グーグル・クラウド・ジャパン Google Cloud データアナリティクステクニカルスペシャリスト 下田 倫大氏 |
――Googleではプラットフォームを提供していますが、そういったAI導入のビジネスコンサルテーションに関わることもあるのですか。
下田氏 : ケースバイケースですが、我々はビジネスコンサルタントではないので、いわゆるお客様のビジネスの課題を見つけるというお手伝いは基本的には行いません。あくまで要素技術やプラットフォームを提供しており、それらをどう活用できるか、どんな風にシステムを構築すれば可能になるかはお手伝いができます。
AIは何でもできそうというイメージが先行しており、乱暴な言い方をすると、「Googleにデータを預ければとにかくすごいことになるんでしょう」と思っている方が結構いらっしゃるんですね。
何度も申し上げているように、AIは部品でありツールです。なんでも叶えてくれる夢の技術ではないので、きちんとプラットフォームでできることとできないことを切り分けていかないといけません。
――AI活用にはデータが欠かせないということですが、データという観点で何かアドバイスはありますか?
下田氏 : 2つあります。まず、データがあるならそれを使ってみるということ。もう一つは、データがないのであれば、ビジネス的にどんなデータがあれば何ができるのかまで考えて取得するということです。
特に後者に関しては重要です。手当たり次第データを貯めても、データの整理が大変になりますし、後から「実はこれがやりたかった」ということに気づいても達成できないことがほとんどです。そこは見極めが必要ですね。
ビジネス的に役立つ可能性があるデータはどんどん取得して、Google クラウドに置いていただければと思います。
――今後の機械学習は、学習データを送るだけですぐに使えるようなSaaSが主流になるのでしょうか。
大薮氏 : モデルを作るのは時間もお金もかかりますし、実際にやろうとしても必ずしも成功するとは限りません。そこはSaaSを利用することで機械学習モデルの作成を効率化するのが良いと思います。
下田氏 : 「Cloud AutoML」という機械学習のアルゴリズムを自動的に最適化し、モデルを生成するような機械学習のサービスも出てきています。もう自分たちでアルゴリズムを書かなくていい未来もありえるのです。
SaaSがすでに提供されている分野はまずSaaSで試していただくのがいいでしょう。そのために我々も画像や音声、自然言語処理のAIプラットフォームを提供していますから。