スタディサプリを運営するリクルートマーケティングパトナーズでは、学習動画を視聴する生徒のデータを分析。最適な動画時間や、志望校に合格する生徒の学習傾向などを導き出し、効率的に学習できる環境作りに生かしている。

パイプドビッツが主催するカンファレンス「スパイラル ビジネスコネクターズフォーラム(SBCF) 2017 +Plus ~情報に自由を~」では、その詳細が同社 大西高 史氏により明かされた。

以下、「データ活用で新たな学習シーンを生み出すスタディサプリ」と題する講演で披露されたノウハウをご紹介していこう。

リクルートマーケティングパートナーズ ネットビジネス本部 プロダクトディベロップメント部 データ基盤G データエンジニア  大西 高史氏。なお、掛けているメガネは後述のJINS MEME

分析とAIで利用率向上

大西氏はリクルートマーケティングパートナーズのネットビジネス本部 プロダクトディベロップメント部 データ基盤グルーブのデータエンジニアだ。

大量データを用いた情報分析基盤の提案から運用までを数多く経験し、現在は、スタディサプリのユーザ行動ログ分析や基盤整備を担当。最近は、スタディサプリラボで受験生を対象にテクノロジーを活用した新たな学びの場の実現に取り組んでいる。

スタディサプリは、リクルートマーケティングパートナーズが提供するオンライン学習教育サービスだ。小学校低学年から大学生までの学習を支援するため、5教科18科目の講義の動画を配信したり、小テストや定期テスト、センター試験、2次試験などの過去問対策を提供する。スマホやPCなどから利用でき、月額980円で受講し放題だ。

有料の会員数は約42万人。高校向けに提供している授業サポートサービスは全国で2000校に利用されている。また、インドネシアなどの東南アジアにもQuipperという名前でサービスを展開しており、先生20万人、生徒200万人に利用されているという。

「ユーザーが動画を見たり、テストを受けたりすると履歴が残ります。これを学習ビッグデータとみなして、AIや機械学習のアルゴリズムを使って、ユーザーの行動を分析します。学習では、わかってるところ、できないところに個人差があります。そのつまづきや個人差にあわせて適切な学習を提供することが目的です」(大西氏)

こうした取り組みはアダプティブラーニング(適応的な学習)と呼ばれている。学習ビッグデータやAIなどのアルゴリズムについては、総務省や東京大学、他の企業などと連携し、共同研究や新サービス開発に生かしている。

総務省とはIoTサービス創出支援事業のPoCを実施し、東京大学とは人工知能の第一人者でもある松尾研究室と共同研究に取り組む。企業連携としては、JINSが開発した集中力を計測するメガネ型デバイス「JINS MEME」と連携して、学習時の集中力と学習効果の関係を研究している事例がある。

1講義は7分×3本、分析から導き出した最適解

大西氏は、それらの事例で、具体的にどんなデータをどう活用しているのかを詳しく紹介した。

まず、データについては、すべてクラウド上に構築したシステムから収集されている。スタディサプリはAWS上にあるRubyアプリケーションとスマホアプリで構成され、データベースとしてMongoDBやPosgreSQLを採用。動画配信プラットフォームにはbrightcoveを採用する。データはAmazon KinesisやFluentdなどで収集し、AWS上のTreasure Data基盤で分析する。

スタディサプリのシステム構成図

視聴分析の流れ

「ログからは、再生ボタンを押したのはいつか、どこまで見たか、見終わったのか、シークバーを操作したかなどがわかります。それらをユーザーの属性情報などと組み合わせて分析します。たとえば、動画を見ている時間と見てない時間を1週間把握すると、そのユーザーの学習サイクルがわかります。日曜日の夕方から夜は社会の動画を見る傾向があるなら、その時間帯は社会に関する動画をレコメンドしたり、関連する情報をパーソナライズして通知したりといったアプローチが可能になります」(大西氏)

データには個人の属性などのストック情報と、サイトへの訪問回数や閲覧履歴などのフロー情報がある。フロー情報をどんどん増やしていくことで、個人の行動特性に合わせた学習支援の精度を上げていくことができるという。取得しているフロー情報としては、訪問回数、前回訪問日、アクティブかどうか、動画視聴回数、問題回答回数、前回最後まで見た動画、前回視聴途中で止めた動画、よく見る動画ジャンル、好きな動画制作監督、動画視聴サイクルなどがある。

「オンライン学習の一番の課題は続かないことです。一人で動画を見るのはなかなか難しく、自立心のある子じゃないと続きません。動画を見なくなることを避けるために、動画の長さや1つの単元の動画を何回で構成すればいいのかを分析しました。その結果『1つの講義は動画1本7分、3チャプターで構成すると長続きする』といったことがわかりました」(大西氏)

動画の長さが視聴率に大きく影響する