ガートナー ジャパンは10月31日~11月2日、都内で「Gartner Symposium/ITxpo 2017」を開催した。11月2日に行われたゲスト基調講演には、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 一橋大学名誉教授 野口悠紀雄氏が登壇。「ブロックチェーン革命」と題し、ブロックチェーンの可能性やこれからの関わり方について論じた。

ブロックチェーンの「3つの特徴」

ブロックチェーンや仮想通貨に関する著書を多数執筆している野口氏。講演は「ブロックチェーンとは何か」といった基礎的なことから、「どういう用途に使われるか」「仕事にどう生かせるか」「われわれは今後、どういう仕事を見つけたらいいか」までをガイドする内容となった。

早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 一橋大学名誉教授 野口悠紀雄氏

まず、ブロックチェーンとは何かについて、”王様”が全ての記録を管理する中央集権的な「電子マネー国」と、多数の人が記録を分散管理する「仮想通貨国」というたとえを用いて解説した。

電子マネー国では、AさんとBさんの間で取引が発生すると王様に伝達し、王様が通貨の記録を管理する。現実世界でも、多くの事業は中央に管理者がいてこういった仕組みで管理している。

一方、仮想通貨国では、王様1人が管理するのではなく、街の中央の広場に石版があり、それに同じ内容の情報を書き込むことで、AさんとBさんの間の取引を記録する。書き込む役を担うのは街のボランティアで、石版に書き込まれた記録は消すことはできない。

「石に素早く情報を書き込む技術がブロックチェーンの技術です。電子マネー国と仮想通貨国の違いは、まずコスト面です。電子マネー国は王様が管理しているので、コストがかかります。もう1つは、攻撃や事故に耐えられるかどうかです。悪い人が台帳を盗んだり、壊したりすると全体がダウンしますが、仮想通貨国は1つの街の石が壊れても記録を維持できます」(野口氏)

この「コスト」と「耐攻撃性」という2つはブロックチェーンの大きな特徴だ。さらに3つ目、最も重要な特徴となるのが「信頼性」である。

「電子マネー国は、王様が悪いことをすれば全体が不正の取引になってしまいます。これに対し、仮想通貨国は不正ができません。なぜできないかと言うと、いったん情報が書き込まれると、書き加えたり、書き換えたりしようとしてもできないからです。ここでは石を信頼しているのであって、ボランティアを信頼しているわけではありません。人ではなくシステムを信頼している点が非常に重要です」(野口氏)

システムの信頼性を担保しているのがプルーフオブワーク(POW)というブロックチェーンの仕組みだ。POWは、「ブロック」という取引のまとまりで構成される。ブロックは「ハッシュ」と「ナンス」で構成され、前のブロックのハッシュとナンスを使って所定の条件を満たすかどうかを計算する。

この計算作業には、解を見いだすための数学的方法がなく、1つずつナンスを確かめて条件に合うものを見つけ出すしかない。もし取引のデータが書き換えられるとハッシュ値が変わり、再計算が必要になる。これには膨大な量の計算が必要だ。そのため、事実上、そうしたデータの書き換えはできなくなる。このように、計算作業を課すことでデータの書き換えをできなくする仕組みがPOWだ。では、こうした特徴を持つブロックチェーンの何が革命的だったのか。

「人や組織ではなく、仕組みを信頼すればいいという、Trustless社会が実現できるようになりました。ブロックチェーンのPOWは、コンピュータサイエンスにおける『ビザンチン将軍問題』(信頼できない相手との通信をどう信頼するかという問題)を解決しました。悪いことをしようとしても経済的に採算が合わない。倫理や性善説に立つ必要がなく、性悪説に立っても機能する仕組みができたのです。これによって、マネーが送れるようになりました。ビットコインでは、インターネットという信頼性の低い仕組みを使って経済的な価値を送ることができます」(野口氏)