ビジネスへのAI導入で生産性を改善
東芝デジタルソリューションズは11月9日~10日、「TOSHIBA OPEN INNOVATION FAIR 2017」を開催。本稿では東芝 執行役専務・東芝デジタルソリューションズ 取締役社長である錦織弘信氏が登壇した基調講演「東芝が新たに目指すデジタルトランスフォーメーションの世界」についてレポートする。
デジタル化の波が企業に押し寄せる中でも、IoT導入率は国内では依然6%、世界の30%に対して24%も開きがある。錦織氏はこのキャズム(溝)について「日本のビジネスモデルの作り方がどうしても技術寄りで、その技術をベースにした新しい価値の訴求が足りないといわれています」と解説し、東芝がここ3年で取り組んできた事例について紹介していく。
半導体フラッシュメモリー事業の四日市工場では、1日あたり20億件にもおよぶビッグデータを効率的に活用するためにAIを導入。
人の手で行っていた際は49%だった欠陥分類率は83%に向上し、不良原因1件当たりの解析時間を平均6時間から2時間へ短縮したことなどが評価され、人工知能学会から現場イノベーション賞 金賞を受賞したという。
同様に8000人が勤務する川崎事務所では300億レコードのデータを活用し、省エネの実現やCO2の大幅な削減に成功して省エネルギーセンター賞を受賞。錦織氏は「今後はこのIoTデータ活用に加え、さらに進化を成し遂げて皆さんと共有していきたいと思います」と続ける。
キャズムを超える鍵となるIoTアーキテクチャ「SPINEX」
そのベースにあるのが、同社のIoTアーキテクチャ「SPINEX(スパインエックス)」だ。「スパインとは脊椎、体の中心となって皆さんを支えるという意味ですが、このSPINEXの特徴は東芝の結集力だと思います」と語る錦織氏。
“新生東芝”として140年培ってきた見識、さらにグループが誇る社会インフラ、エネルギー、電子デバイス、デジタルソリューションなどを結集させ、IoT事業のさらなる加速を目指すという。
ここで錦織氏は、東芝グループすべてにおけるIoT事業のビジネス規模について解説。2016年に2000億円、その3年後となる2019年には3000億円を事業目標として前進しているという。「どこにポイントがあるかというと、デジタルツインです。現場、リアルのデータを仮想空間、サイバー上に持っていってシミュレーションをする。そして改善して現場に返すという、非常に大事なテクノロジーだと考えています」と語る。
錦織氏は「先ほど言いましたとおり、IoT事業を加速させるためには超えなくてはならないキャズムがあります」と続け、東芝ではそのキーとしてデジタルツインとAI技術を掲げている。デジタルツインの開発では統合データモデルの構築に最も苦労したが、多種多様なビッグデータを関連付け、時間と空間を越えた複雑な事象の予測に繋げていくことを可能とした。
また、SPINEXを支えるAIサービスとして、同社では50年にわたり蓄積してきた音声・画像認識技術を活用したコミュニケーションAI「RECAIUS(リカイアス)」として展開している。
一方、錦織氏が「140年のモノづくりの知見と実績を踏まえ、人と同じようにモノをどう理解するのかということに力を入れています」と語るように、2017年10月30日にはアナリティクスAI「SATLYS(サトリス)」を提供開始した。SATLYSでは、学習データが少なくても、それを自分自身で増殖させられる。こうして増大したデータを徹底的に解析することで、高精度な推論を可能としているのだ。