ガートナー ジャパンは10月31日~11月3日、都内で「Gartner Symposium/ITxpo 2017」を開催した。11月1日のゲスト基調講演には三菱UFJリサーチ&コンサルティング 代表取締役社長 村林聡氏が登壇し「デジタル社会の到来とレガシー企業のチャレンジ」と題する講演を行った。

変化のなかで描いたシステムの将来像

村林氏は、2009年に三菱東京UFJ銀行の執行役員システム部長に就任後、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)常務執行役員事務・システム企画部担当、同執行役専務グループCIOなどを歴任し、現職に就いたのは2017年6月のことだ。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、MUFGのシンクタンク・コンサルティングファームで、東京・名古屋・大阪を拠点に、民間企業向けコンサルティングや経営情報サービスの提供、人材育成支援、調査研究、国や自治体への政策提言などを行っている。

村林氏の講演は、金融機関システムの変遷や村林氏自身のキャリアを振り返りながら、村林氏が注目してきた技術トレンドやMUFGのデジタルトランスフォーメーションの取り組みを紹介するものとなった。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 代表取締役社長 村林聡氏

村林氏はまず、1970年からの情報化技術の振り返りとして、大型汎用コンピュータ時代からダウンサイジング技術が台頭するなか、1990年からはネットワーク・マルチメディア技術が急速に進展し、2000年代にはインターネット、Web2.0、グリッド・コンピューティングなどに発展したことに触れた。

金融業界では、金融ビッグバンによりスピードが勝負の”淘汰の時代”入った。その後、リーマンショックと金融超緩和を経て、金融機関の収益環境はますます厳しくなったという。一方で、クラウドやモバイルデバイスが普及し、「フィンテック」「AI」「IoT」「ビッグデータ」「オープンイノベーション」といったデジタル技術が急速に発展した。

村林氏は、そうしたなかでのITシステムのあり方の変化について「2005年ごろまで情報システムの主な役割は、ITの戦略的活用によって競争優位を確立することでした。しかし、現在では、最新デジタル技術を活用して、ニーズの多様化と環境変化に迅速に対応することが大きなテーマになっています。『作るから使う』『アジャイル』『オープンAPI』『シェアリング』などのキーワードが示すように、オープンイノベーションによる競争力の一層の強化が求められています」と説明する。

このような発想の転換の契機となったのが、2006年ごろに起きた「ネットのこちら側とあちら側」の議論だという。Linuxのようなコミュニティに基づく「信頼」や、あちら側としての「Web2.0」によって、それまでの「大組織の情報システム」が、オープンな「基幹プラットフォーム」や、インターネット経由での「お客さま向けダイレクトシステム」「社内業務・事務システム」に変わっていくことが予想された。

村林氏は旧UFJ銀行時代の2003年ごろから、オープンな仕組みで情報システムや業務システム、顧客サービスなどがつながっていくシステムの将来像を描いていたという。2006年の東京三菱銀行との合併後、こうした発想はより現実的な取り組みになっていく。

そこで生きたのが、2009年から同氏が複数年にわたって参加した「Gartner Research Board」での経験だ。Research Boardは、ニューヨークに拠点を置く世界各国のCIOが参加する国際的なシンクタンクで、ゲストを招いた会議を毎年開催している。

村林氏は、会議に毎年出席して、クラウドソーシング、モバイルインターネット、コンシューマーベースのサービスとテクノロジー、ビッグデータ分析、コンバージドコンピューティングといった最先端の技術動向にいちはやく触れることができたという。

「2010年当時注目していた技術トレンドは、クラウドやSNS、データアナリティクス、モビリティ、ロボット、インターネットセキュリティ、アジャイルなどです。クラウドと自社システムを組み合わせて、顧客や社内にサービスを提供していくことを検討しました。また、CRMの対抗概念として、VRM(Vendor Relationship Management)という概念があることをドク・サールズ氏の著書『インテンション・エコノミー』(発行:翔泳社)で知り、お客さまのライフスタイルに必要なサービスをアグリゲーション・オートメーションするVRMクラウドサービスの構築を模索しました」(同氏)