日本電気(NEC)は11月9日、10日の2日間にわたり、同社の年次イベント「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO 2017」を開催。展示会場では「サステナブルな社会」「バリューチェーンイノベーション」「デジタルトランスフォーメーションを支えるソリューション・プラットフォーム」の3つのテーマの下、さまざまな製品・技術の展示が行われた。
なかでもNECが力を入れるAI技術群「NEC the WISE」の技術を活用した展示のなかで、ひときわ注目を集めていたのが、AIとコーヒーのプロフェッショナルがコラボしたブレンドコーヒー「飲める文庫」だ。これは、NECとコーヒー豆専門店のやなか珈琲(以下、やなか珈琲店)のコラボレーションによって実現したもので、名作文学の読後感をコーヒーの味わいで再現しようという試みである。
AIが作った味わいレシピをプロが具現化
飲める文庫の開発プロセスは、次のとおりだ。
まず、NECのデータサイエンティストが、文学作品に関する1万件以上のレビュー文(読後感)をコーヒーの味覚指標(苦味・甘み・余韻・クリア感・飲みごたえ)に変換した学習データを作成する。これが、機械学習の「教師データ」にあたる。
次に、NEC the WISEのディープラーニング技術「NEC Advanced Analytics - RAPID機械学習」に学習データを投入し、分析モデルを作成する。完成した分析モデルを使って名作文学のレビュー文を分析し、出力された味覚指標に応じてレーダーチャートを作成。これをレシピとして、やなか珈琲店のカップテスター(コーヒーに関する高い知識を有する専門職)がブレンドコーヒーを考案・開発する流れだ。
RAPID機械学習では、特徴を自動的に抽出しながら学習するため、分析作業期間を大幅に短縮しながら高精度なモデルを生成できる点を特徴とする。今回のプロジェクトを企画したNEC デジタル戦略本部 兼 AI・アナリティクス事業開発本部 エキスパート 茂木崇氏は、「データを用意するところがいちばん大変でした」と語る。データのクレンジングはもちろん、できるだけ公平に文章を味覚指標に変換するために、あらかじめ「こういう言葉が入った感想であれば『苦味』にフラグを立てる」といったガイドラインを設けたという。
NEC デジタル戦略本部 兼 AI・アナリティクス事業開発本部 エキスパート 茂木崇氏 |
「データの収集などは外部の協力会社にも依頼しましたが、社内の人員は10人ほど、そのうちアナリストは5人で取り組みました。プロジェクトのスタートは今年の2月頃です。(10月27日に商品の販売を開始したので)9カ月ほどかかったことになります」(茂木氏)
今回の取り組みでは、作成した分析モデルに対し、名作文学29作品のレビュー文を、1作品につき数百件程度読み込ませ、特徴的な傾向が得られた「若菜集」「人間失格」「吾輩は猫である」「こころ」「三四郎」「舞姫」の6作品が実際に商品化された。
飲める文庫は、既にやなか珈琲店の主要店舗・通販サイトにて11月30日までの期間限定で販売開始している(期間中でも在庫がなくなり次第、販売は終了)。
会場では、参加者が自分の人生のワンシーンを端的な一言で入力し、いくつかの質問に答えると、そのシーンにマッチする名作コーヒーブレンドを教えてくれるデモを実施しており、盛況を博していた。
人生のワンシーンを表す言葉を入力。「就職」「結婚」といった言葉を入力する参加者が多かったそうだ |
続いて4つほどの質問に答える。回答はテキスト入力も可能で、データはAIが学習していくという |
味覚指標をはじき出したチャートが表示され、人生のワンシーンにマッチするコーヒーを教えてくれる |
茂木氏は「AIをこんな風に使うこともできるということを知ってもらい、可能性を感じてもらう取り組みの一環として考えました」と説明する。同氏のチームは、このほかにも11月13日~11月26日に開催される体験型イベント「視線で花咲くアート展」を企画しており、期間中は丸の内の行幸地下通路にて、人の視線の向きに応じて変化するプロジェクションマッピングの映像が展示されている。
これを実現したのが、NECとネイキッドのコラボレーションだ。NEC the WISEの1つで、カメラでとらえた映像から人の視線の向きをリアルタイムに検知する「遠隔視線推定技術」と、ネイキッドが制作するプロジェクションマッピングの映像を組み合わせて制作された。
展示映像では、会場内の特定の位置に立つ鑑賞者が視線を向けた先のスクリーンで、花が育ったり、蝶が飛んだりといった様子が表現される。複数の鑑賞者にも同時対応するので、それぞれの視線の先で生み出される生命が重なり合う世界を楽しむことができるという。人間とAIとの協調によって完成するデジタルアート空間というわけだ。
飲める文庫に、視線で花咲くアート。AIに何ができるのか、身近に感じ、考えてみる良い機会になるのではないだろうか。