「5月5日は何の日?」という質問に対して、多くの読者は「こどもの日」と答えるのではないだろうか。実は、日本国内の記念日の登録を行う日本記念日協会では、「午後の紅茶の日」とも認定している。「5」と「5」で「午後」と読む語呂合わせからで、もちろんキリンビバレッジの申請によるものだ。
同協会はそのほかにも「フットサルの日」や「レゴの日」などを5月5日の記念日として認定しているが、「キリン 午後の紅茶」のデジタルマーケティングを担当するキリン デジタルマーケティング部 大森 有夏氏によると、こどもの日という万人が認知している記念日への参入に苦戦中だという。
「やはり5月5日というと、こどもの日のイメージが強く、またゴールデンウィークの真っ只中であるため、より自分ゴト化してもらえる内容でないと広まりづらいですね」(大森氏)
こういった状況の中、キリンおよびキリンビバレッジはどのようにして「5月5日は午後の紅茶の日」というイメージを広めて定着させていくのだろうか。その戦略や構想を大森氏に伺った。
長期的な視点で「5月5日は午後の紅茶の日」の定着を図る
商品ブランドと日にちを紐付けた一番の成功例は、江崎グリコの「ポッキー&プリッツの日」だろう。
「1111」が4本のポッキーあるいはプリッツに見えることから平成11年(1999年)11月11日に制定されたこの記念日は、毎年大々的なキャンペーンを実施しており、一般の認知度も圧倒的に高い。
一方、午後の紅茶の日が制定されたのは2015年。ポッキー&プリッツの日に比べるとまだまだ歴史は浅いといえる。「長期的な視点で5月5日を午後の紅茶の日として定着させていきたい」と大森氏は語る。
昨年は、午後の紅茶の日のキャンペーンとしてデジタルを中心としたプロモーションを展開した。
具体的には、特設サイトに自分の顔写真をアップロードすると、キリン 午後の紅茶のシンボルである7代目ベッドフォード公爵夫人「アンナ・マリア」風のオリジナルマークを生成することができる。さらに、このマークをハッシュタグ付きでSNSに投稿すると、抽選で5人のマークがスペシャルサイトで紹介されるというもので、コンテンツを体験した人がSNSで自発的に発信し、話題が拡散していくことを狙った。
「キリン 午後の紅茶」ブランドがトレードマークであるアンナ・マリアを使用し、デジタル上でユーザーが自由に楽しめるコンテンツを実施したのはこれが最初の取り組みであったが、やはり連休中ということもあり、デジタルを中心としたこの施策は期待値以上の成果にはつながらなかったという。それを踏まえて、今年の5月5日に打ち出された施策が「有給休暇プレゼントプロジェクト」だ。
2016年キャンペーンのFacebook広告 |
ゴールデンウィークにも働くカフェ店員に休みをプレゼント
有給休暇プレゼントプロジェクトは、5月5日も営業している東京のカフェ「Sign 外苑前」のスタッフに有給休暇を取得してもらう代わりに、カフェの外観に午後の紅茶の特別装飾を施し、メッセージを公開するというものだ。一連の様子は、キリンの公式SNSアカウントなどを通して配信された。
5月5日が休日という、製品のプロモーションにとっては不利な状況を逆手に取り、かつ、「上質な休息を提供する」という午後の紅茶のコンセプトもうまく反映させた施策だといえる。
国を挙げた「働き方改革」が進められている昨今、飲食店の繁忙期にあえて休みを取ってもらうという同施策の話題性は高く、多数のメディアで取り上げられた。さらに、Webタイアップ記事もSNSで広く拡散され、多くの好意的な意見が寄せられた。
有給休暇プレゼントプロジェクトのTwitter告知 |
また、同施策に合わせて実施した午後の紅茶6本セットが当たるTwitterキャンペーンにも、想定を上回る応募があったという。
「午後の紅茶はもともと20~30代の女性をターゲットとしている商品ですが、実はTwitterのユーザー層ともマッチした商品であると考えています。商品ブランドによってお客さまの反応は異なりますが、たとえば、『午前中から午後の紅茶を飲んでしまった』といった罪を報告するようなユーモアのあるツイートが多くみられるなど、午後の紅茶はとくにTwitterでの反応が良いですね。午後の紅茶を”自分ゴト化”したうえで、遊びとして楽しんでいただけているような印象です」(大森氏)
今回のTwitterキャンペーンでは、女優の宮﨑あおいさんを起用した新CMを活用し、当たりはずれの結果がすぐに動画でわかるようにしたことで、「接点はキャンペーンでありながらも、”5月5日は午後の紅茶の日である”という認知向上を促すことができたのでは」と大森氏は振り返っている。
リアルのブランド体験とデジタルをどう掛け合わせていくか
昨年のアンナ・マリア風オリジナルマークを生成する施策は、オンライン上のコンテンツマーケティングとしての要素が大きかったが、今年の有給休暇プロジェクトはブランド体験という要素を重視し、リアルのイベントをPRすることで結果的にデジタル上に波及させていくという発想になっている。
同社としては今後も、リアルのイベントとデジタルをどう掛け合わせていくかという課題に対して重点的に取り組んでいく考えで、来年の5月5日は、より話題化し、連休の中でも自分ゴト化してもらえるような施策を検討する必要がある。
今回で3回目となる午後の紅茶の日の施策。まだ歴史が浅く、「5月5日=午後の紅茶の日」というイメージを世の中に定着させていくにはさらなる工夫が必要となるだろう。
すでに来年の5月5日に向けて、プロジェクトは動きはじめている。
「ポッキー&プリッツの日も、十何年もやりつづけてようやく定着したので、すぐに成功できる話ではないと考えています。『午後の紅茶って5月5日におもしろいことするよね』と言ってもらえるような話題作りを、これからも毎年行っていければと考えています」(大森氏)