10月5日、ITR主催の年次カンファレンス「IT Trend 2017」が、都内にて開催された。「デジタライゼーションが誘発するビジネス革新」をテーマに掲げた同カンファレンスでは、ITRのアナリストやIT業界のキーパーソンらの講演を通じ、ビジネスにおけるIT活用の勘所が示された。
本稿では、特別セッションにて登壇した富士通 デジタルフロントセンター シニアマネージャー 生川慎二氏の講演「デジタル時代の顧客接点高度化に向けた共創の取り組みについて」の模様をダイジェストでお届けしよう。
ビジネスを左右する「顧客エンゲージ」にどう取り組むべきか
現在、顧客接点におけるパラダイムシフトが起きており、マーケティング4.0時代ならではの顧客接点が求められている。そこで企業はどうすべきなのだろうか。これまでは商品の価値を上げれば顧客の満足度を高めることができたが、今はプロセスにおける「体験」によって、心の満足を得る──つまり、エンゲージするようになってきている。
「今、顧客のエンゲージをどのようにしてビジネスに取り込むかが、強く問われています。最も効果が高いのがコールセンターやヘルプデスクといったコンタクトセンターです。これまでは『コストセンター』などと言われていたこれらの部門を、どうやって『ベネフィットセンター』へと変えるかが、勝負どころとなります」(生川氏)
富士通 デジタルフロントセンター シニアマネージャー 生川慎二氏 |
しかしながら、現在のコンタクトセンターは大きなピンチを迎えている。それは採用難や離職増といった人材に関する問題であり、地方においても人材を集めるのが困難になってきているのだ。
「日本人は神経質なところがあり、方言やイントネーションが少しでも違うと受け入れられなかったりします。同じ小売業でも、店舗では外国人の店員が受け入れられるのに、コンタクトセンターではそうはいかなかったりするのです。こうした事情からも、AIの活用が強く求められています」(生川氏)
今年は「顧客接点高度化の元年」とも言われ、問い合わせや相談系、販売・マーケット系の顧客接点でAIによる自動応答を用いた効率化の取り組みが加速している。
生川氏は「来年になれば、パターン化した内容は自動応答で、それ以外の人間でなければできない対応については人間にとシフトする流れが起きてくるでしょう」と見解を示した。
「何でもディープラーニング」の危険
では、問い合わせや相談に適したAIエンジンとはどのようなものだろうか。
一般に、「AIの活用」と言うとディープラーニングのイメージが強い。だが、生川氏は「顧客からの問い合わせ対応などにはディープラーニングは向いていません。ただし、大量のデータからのパターン認識は得意なので、向き・不向きを理解して使えば効果があるでしょう。『何でもディープラーニングで』という風潮は危険ではないでしょうか」と苦言を呈す。
同氏によれば、問い合わせ・相談対応に向いているAIは、対話型と機械学習のハイブリッド型であるという。
「我々が近くリリースしようとしている対話型・機械学習ハイブリッドのAIでは、87%という高いヒット率となっています」(生川氏)
とは言え、現時点の技術では、AIのみによる完全な自動応対は困難だ。やはり今のところは人間による対応とチャットボットなどによる対応を併用したアプローチが現実的であると言える。
生川氏はこう語る。
「派手なプロモーションビデオにだまされずに、自社の実データで試す段階に来ています。現在、我々にはAI活用の相談が直近3カ月で約125件寄せられていますが、そのうち120件はIT部門ではなく現場部門からのものです。それだけ現場では必死にAI活用を模索していることがうかがえます」
顧客からの問い合わせ・相談対応に適しているのがAIチャットボットだが、その力をフルに発揮するためにはチューニングポイントを押さえる必要がある。AIは成長させなければ十分に生かせない。したがって、利用部門側で成長させられるように、チューニングポイントがブラックボックス化してないかどうかを見極めることが重要なのだ。