7月21日、22日の2日間、開催されたソフトバンクグループの法人向けイベント「SoftBank World 2017」。イベント初日には、ヤフー CSO (チーフストラテジーオフィサー)の安宅和人氏が、「AI×データは世の中をどう変えるか?」をテーマに講演を行った。

Google傘下にある人工知能研究所DeepMindが開発した囲碁プログラムのAlphaGo(アルファ碁)が、2016年3月に世界トップクラスのプロ棋士のひとりであるイ・セドルに勝利したニュースは世界中に衝撃を与えた。”人類の敗北”ともうたわれたこの出来事に象徴される最近の急速なAIの進化を受けて、安宅氏は、「間違いなく歴史的な局面を迎えている」と表現した。

ヤフー CSOの安宅和人氏

あらゆる産業のIT化で、市場競争のあり方が根底から変わりつつある

「かつての産業革命のように、今まさに情報産業革命の真っ直中にある。ここで抑えておかねばならないのは、これまではICTというのはその他の産業の一つに過ぎなかったが、今ではすべての産業がIT化されつつあるということだ」(安宅氏)

実際、すべての産業がIT化されつつあることを示す各企業の事例は枚挙に暇がない。例えばアマゾンの無人店舗Amazon Goは、小売産業のIT化を象徴すると言えるだろう。また、最新の企業の時価総額ランキングを見ると、トップから10位までのほとんどが情報産業で埋め尽くされている。

安宅氏は言う。「10年前にはこのようなランキングは考えられなかったはずだが、この意味を深く考えることが大事だ。何が世の中を変えているのかがよく表れているからだ。例えばテスラモーターズは今や米国最大の時価総額を有する自動車メーカーとなったが、販売規模ではGMやトヨタの100分の1にも満たない。つまり、規模が富につながらない時代に入っていることを意味すると言えるだろう」

この流れは、市場競争をOLD GAMEからNEW GAMEに変えつつある。富を生みだす方程式が本質的に変化して、根底のルールが変わりつつある時代にあるのである。

「今までのルールでどうするのかではなく、これまでなかった新しい価値を生み出せるかどうかが重要になっているのだ。それはつまり、妄想し、それをカタチにする力が大事だということ。その実現に欠かせないデータ×AIの活用ができなければ、どの企業であっても危うい時代となっているのだ」と安宅氏は主張した。

情報産業革命の次のフェーズからが日本の勝負どころ

現在、AI技術を有する企業・組織とデータを有する企業・組織との連携が世界中で進んでいる。”使える”データをAIで処理してサービス等の価値として提供することを繰り返しながら、プラスのスパイラルが進んでいくわけだが、ここは本質的にネットワークの効果が働きやすい。

例えば、個人の活動に関するデータがスマートフォンに蓄積されると、その個人の運動量がわかるが、ネットワークにより複数人のデータを集めることで、更なる価値が創出されることになる。安宅氏によると、スマートフォンから得られた活動量データのみを用いて、AIにより人間関係を分析したところ、描かれた人間関係グラフの正解率は実に96%にもなったという。

「存在するデータの価値を決めるのは運用にある。我々は、情報鮮度から富を生みだしているのであり、データは存在していてもリアルタイムで使わなければ価値は生み出せない。古いものを溜めておいただけではせいぜい学習用のデータにしかならないだろう。ビッグデータの本質は、大きさというよりも全量性とリアルタイム性にあるのだ」(安宅氏)