「IoTは色んな人が考えて、技術的に裏付けを持ったIoTデバイスの在り方は考えつくされていると思ってもいい」

金沢美術工芸大学で非常勤講師を務める倉本 仁氏は、いわゆるコンシューマ向けIoTデバイスについてこう語る。倉本氏がそのように語る根拠は、「IoTデバイス」がリアルに存在する「モノ」をインターネットに繋げる機能性の拡張であるという定義に基づくものだ。

わかりやすい例が目覚まし時計。目覚まし時計をインターネットに接続しようとも、消費者は「ネットに繋がる目覚まし時計」を購入しようとし、”いかにもな目覚まし時計”を探そうとする。つまり、機能性が連想できるデザインを求めて「IoT目覚まし時計」を探し、それを設計するメーカーもまた、”いかにもな目覚まし時計”を製作する。そのため、技術的に、そして”みんなが考えるIoTデバイス”は考えつくされているというのが倉本氏の考え方だという。

ただし倉本氏は「IoTはネットに繋がって”新しい価値”を生み出すことが本質。つまり、外見や形状、使い勝手、体験という、消費者が体感するすべてをうまく整えないことには、本質的な価値には届かない」とも語る。

これは、表面上のデザインにとらわれることで、本来インターネットに接続して生み出せる新たな価値の最大化を果たせないのであれば、そのデザインは意味を成さないということだ。「今までの方法論を、イレギュラーながら新たな角度から提案していくことが、面白いIoTデバイスに繋がるのではないか」(倉本氏)。

人はデザインから機能を連想する

美術大学 講師の倉本氏がIoTデバイスについて語ったワケは、ソフトバンクが同大学とコラボレーションして新しいIoTデバイスを生み出すプロジェクトを進めていることにある。同社が運営する「+Style(プラススタイル)」では、IoTに関連した新製品開発を支援するプラットフォームとしてさまざまなIoTデバイスを取り扱っている。

ショッピングサイトとしての機能だけでなく、プランニングからクラウドファンディングという起案~出資までを包含したプラットフォームであるため、大学に限らずスモールスタートでさまざまな企業がIoTデバイスに挑戦できる下地が整っている。現時点では、ショッピングが23製品、プランニングが10製品の33製品を取り揃えており、順次拡大を進めていくという。

そして、新たなIoTデバイスを生み出す一環としてスタートしたのが金沢美術工芸大学における特別授業だ。学生はソフトバンクや関係メーカー協力のもと、IoTについて学ぶとともに、デザインを起点に新たなIoTデバイスのアイデア・デザイン検討を行う。優秀な作品については、最終的に+Style上で製品化、取り扱いも検討する予定だ。

6月7日の授業では、アイデア・デザインの最終プレゼンテーションが行われた。冒頭の倉本氏の発言は、最終プレゼンを前に、学生や報道陣に対して「IoTデバイスに、デザイナーがどうアプローチすべきか」を改めて説いたものだ。倉本氏はまた、企業がプロダクトをデザインする上で「機能から入るのではなく、デザインと機能を、合わせて最初から考えるべきだ」とも話した。

これは、スマートフォン上でアプリがUI・UXを念頭に作られているのと同じく、機能性をユーザーが自然な形で想起できることが、IoTデバイスが成功する一つの解という話だ。プラススタイルで取り扱っている製品を例に挙げれば、ドッグカメラ「Furbo」は、いかにもなペットを遠隔監視できるネットワークカメラながら、おやつを出せる機能性も持ちつつ、シンプルなデザインにまとめている。

一口に「デザイン」といっても、コンセプトからターゲットユーザー、機能性、UXまで、幅広い検討を行わなければならない。「犬を撮影して餌を出すカメラ」という機能ありきであれば、恐らく「餌台を設置するネットワークカメラ」にとどまっていただろう。

プレゼンでは3年生の14名が、メンターのアドバイスのもとに各々のアイデアを披露。美大らしく、パワーポイントではない高品質なパンフレット仕様のデザイン画を用いてソフトバンクや関係メーカーに説明した。

詳細は割愛するものの、座禅用クッションに心拍センサーを取り付けてストレスを可視化する製品や、靴下と圧力センサーを組み合わせてサッカーの正しいミートポイントを可視化する製品、ぬいぐるみのIoT化で子供が親しみを持ちつつ、話しかけたデータを集積する製品など、学生らしい柔軟な、かつ採算性を重視した実用的”ではない”製品の発送をコンセプトとして提案していた。

学生はデバイスだけでなく、IoTらしくアプリのUI/UX設計までコンセプトを練り込む