ウェアラブル端末などから取得した生体情報や行動情報を基に、健康な生活の維持を目指すヘルスケアIoT。だが、日本においてはまだまだ浸透しているとは言い難いのが現状だ。その理由はどこにあるのだろうか。

4月19日から21日にかけて開催された「ヘルスケアIT 2017」では、ニューチャーネットワークス コンサルタント/ヘルスケアIoTコンソーシアム事務局マネージャーの会田明代氏が登壇し、ヘルスケアIoTが目指す社会の姿と、その実現に向けて直面する課題について講演を行った。

ヘルスケアIoTが直面する「3つの課題」

登壇した会田氏は、パナソニック、パナソニックヘルスケア、GEヘルスケア・ジャパンを経て現職に至る。ニューチャーネットワークスでは新規事業や事業戦略PJ支援などを手掛けた後、昨年9月にヘルスケアIoTコンソーシアムを立ち上げた。

立ち上げのきっかけとなったのは、ヘルスケアIoT市場を作る大変さを実感したこと。「欧米の大企業なら1社で状況を変えられるかもしれないが、今の日本では難しい。同じ課題意識を持っている人は多いのだから、コンソーシアムを立ち上げたらよいのでは」という思いが設立につながった。

ニューチャーネットワークス コンサルタント/ヘルスケアIoTコンソーシアム事務局マネージャー 会田明代氏

それでは、IoT時代のヘルスケアはどうなっていくのだろうか。会田氏によれば、ヘルスケアIoTが直面している課題は3つあるという。

まず、データが集まらずサービスにつながらないこと。また、人の習慣を変えるのは容易ではないこと。そして、何より健康への関心が低い層が多く、データ取得・提供のメリットを感じてもらいにくいということだ。

例えば、現在、ウェアラブル端末を身に着けている人がどれだけいるだろうか。一時期、盛り上がりはしたものの、「今はもう減ってしまっている」と会田氏は見ている。

「データを取得すればどうなるのかというメリットをうまく語れず、逆に『着けるのが面倒』とか、『行動を監視されているみたいで嫌だ』といった感覚的なデメリットのほうが大きかった」というのだ。

そもそも、人の習慣を変えること自体が難しい。特に健康分野では病気になって初めて行動を起こす人が多く、現在が健康体であればわざわざデータを取ろうとまでは思わない人が多いのだ。

また、ヘルスケアに関するデータは個人情報なので、企業間の連携が難しいという事情もある。あくまでも各社ごとの取り組みに留まっているため、サービスが広がらないのだ。企業間連携を進めるためにはFintechの金融機関連携のように情報をまとめる仕組みが不可欠だが、それがなかなか実現できないのが現状である。

会田氏は米コーネル大学のブライアン・ワンシンク博士の言葉を引用し、「19世紀は衛生の世紀、20世紀は医療の世紀でした。21世紀は行動変容の世紀になるでしょう」と語る。

行動変容――すなわち日常行動を変化させて健康を維持しようということだ。そこでキーワードとなるのが「JITAI(Just in Time Adaptive Intervention)」である。これは、「人はそれぞれ性格や身体特性が違うのだから、一律の方法で行動変容を促すのでなく、ビッグデータ解析を行って内容やタイミングをカスタマイズすべき」という考え方だ。

対象が「人」であることも忘れてはいけない。人が行動を変えるには「幸福度」という概念が必要になる。「健康」や「ヘルスケア」は欠乏欲求であり、なくなるまで価値に気が付きにくいものだからだ。