製薬業界にデジタル変革の波が訪れている。研究開発はもちろん、医療のサポート、経営の効率化などあらゆる面でデジタルイノベーションが起きているのだ。その背景には、医療環境の変化とデジタル技術の進展があった。
4月19日から21日にかけて開催された「ヘルスケアIT 2017」。基調講演にはバイエル薬品 オープンイノベーションセンター R&Dアドバンストアナリティクス&デジタルヘルスイノベーション医学博士 マネージャーの菊池 紀広氏が登壇し、同社が取り組むデジタルイノベーションについて語った。
製薬企業に対するニーズの変化と高まる期待
当日、登壇した菊池氏はまず、バイエルが手掛ける3つの事業領域として「医療用医薬品(処方薬)」「コンシューマーヘルス(市販薬・栄養補助食品など)」「クロップサイエンス(農薬・種子・動物用薬品など)」を挙げ、医療用医薬品については循環器領域や腫瘍領域、婦人科領域など幅広い領域に注力して研究開発を行っていることを紹介した。
「バイエルは現在、アカデミアの先生方や企業と協力して創薬のオープンイノベーションを進めています。世界各地に拠点を持ち、日本では大阪にオープンイノベーションセンタージャパンを設立しました」(菊池氏)
バイエル薬品 オープンイノベーションセンター R&Dアドバンストアナリティクス&デジタルヘルスイノベーション医学博士 マネージャーの菊池 紀広氏 |
オープンイノベーションセンタージャパンには、「デジタルにおけるイノベーションを進める」という役割があるという。
その方向性は大きく2つに分かれる。
1つはアドバンストアナリティクス。データに基づく意思決定により、ビジネスの効率化を図るというものだ。
もう1つは、ウェアラブル端末・モバイルアプリなどを活用して患者の生活の質を高めるというもの。これらはバイエル以外でも各社、取り組みが加速している分野でもある。
その背景には「製薬企業に対するニーズの変化がある」と菊池氏は語る。
「超高齢化や地域包括ケアシステムなどによるプレーヤーの多様化と医療環境の変化、そしてAIを使った診断やモバイルセンサーの普及などのデジタル技術の進展、これらがデジタルヘルスへの期待が膨らんでいる理由なのです」(菊池氏)
そもそも製薬企業にとっての「デジタル変革」とは何か。
菊池氏によると、「患者のニーズを探り当てて的確に対応するため、デジタル技術が生み出す機会を生かして事業の活動とプロセス、能力向上を加速させる」ことだという。
その1つが、患者が発病してから治療が完了するまでの「ペイシェントジャーニー」に寄り添うということだ。これまで製薬企業は医師を通して治療に貢献してきたわけだが、ペイシェントジャーニーを見ていくと、治療の前後にも患者の「ニーズ」と「機会」があることに気づいたと菊池氏は述べる。
例えば、発症期においては疾患の早期発見のサポートが行える。診断時には遠隔診断技術で貢献することができるし、疾病管理のために服薬管理やリモートモニタリングなどの技術が役立つというわけだ。
ペイシェントジャーニーをトータルケアしていくことが、これからの製薬企業に求められる役割であり、そこで大きな力となるのがデジタル技術なのである。
製薬企業と異業種との連携も進む。例えば、サノフィとVerily Life Sciences(Verily)が糖尿病患者支援のプラットフォーム開発を行うジョイントベンチャー「Onduo」を設立しているほか、大塚製薬と日本IBMは電子カルテデータ分析ソフトを提供する合弁企業「大塚デジタルヘルス」を、グラクソ・スミスクラインとVerilyはバイオエレクトロニクス医療機器を開発する合弁企業「Galvani Bioelectronics」を設立している。