主要インターネット企業で構成する新経済連盟は、4月6日から7日にかけて新経済サミット2017を開催した。本稿では、カンファレンス全体のキーワード「AI(人工知能)」をテーマに据えたパネルディスカッション「AIは未来をどう変えるか」での議論の様子をお伝えする。
登壇したのは、IBM ワトソン&クラウドプラットフォーム ジェネラル・マネジャー兼チーフ・レベニュー・オフィサーのジェイ・ベリシモ氏、東京大学大学院 工学系研究科 特任准教授の松尾豊氏、楽天 執行役員 兼 楽天技術研究所 代表の森正弥氏。モデレーターはマネーフォワード 代表取締役社長 CEOの辻庸介氏が務めた。
AIの「今」
パネリストたちは、いずれも日頃からAIに深くかかわる立場にある。そんな彼らは、AIの現状をどう見ているのだろうか。
IBMは、WatsonをAIではなく「コグニティブテクノロジー」と呼んでいる。ベリシモ氏は「2000年代に入ってから登場したコグニティブコンピューティングは、今までにない影響を社会全体に及ぼすものであり、その影響は長く継続すると予測されている」と説明する。
「大きな課題は、歴史上初めて、人間がさまざまな形式のデータの爆発的な増加とそのスピードに付いていけない時代が到来したということにあります。これだけデータがあるのに圧倒されてしまい、AIのような技術とどう組み合わせればいいかわからないのです。しかし、コグニティブテクノロジーは、競争力強化に使わないといけません」(ベリシモ氏)
IBMとしては、Watsonを事業における人間の意思決定や洞察を得ることに役立ててほしいようだ。
次に松尾氏が、これまでのAI研究を振り返る。
「私はこれまでずっとディープラーニングが重要だと言い続けてきました。ここ数年で急速に発展が進んだディープラーニングにできることは、認識、運動の習熟、言葉の意味の理解です」(松尾氏)
そして、現在のAIをめぐる状況を古生物学の「カンブリア爆発」になぞらえ、現状を「機械・ロボットのカンブリア爆発」だとした。
「先カンブリア代に爆発的に生物が多様化した理由には、諸説あります。その1つが、アンドリュー・パーカー教授が提唱した『光スイッチ説』です。この説は、眼を持つ生物の登場が生物同士の生存競争を激化させ、進化や淘汰を促したというものです。人間の視覚認識では、網膜から入ってきた信号を視覚野で処理します。機械・ロボットの場合は、イメージセンサー(カメラ)から入ってきた信号を処理する役割をディープラーニングが担っています」(松尾氏)
では、機械・ロボットが眼を持つと何ができるようになるのか。松尾氏によれば、これまで自動化されていなかったさまざまな作業を自動化できるようになるという。
「トマトの収穫ロボットがない理由は、ロボットは眼が見えないからです。育成中の摘果摘蕾、収穫時の選果には眼が必要なので、今は人間が手作業でやるしかありません。この作業の自動化に必要なのが『眼の技術』、すなわちディープラーニングです。農業だけでなく、建設業、組立製造業、医療・介護など様々な業種に応用できます。機械・ロボットと言えば日本の得意分野ですから、日本が世界市場でリーダーシップを取れるかどうか、大きなチャレンジとなるでしょう」(松尾氏)
日本企業においては、自社のビジネスのなかで「眼」がどう関係しているか、作業を自動化するとどんな市場が生まれるかを特定し、研究開発に投資をすれば、潜在的に非常に大きい市場のシェア獲得につながるというわけだ。