コーナーストーンオンデマンドは2月17日、グローバル企業の経営企画や、人事・人財開発者を対象とした「グローバルタレントマネジメントセミナー」を東京都内で開催した。基調講演には、元プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)米国本社 HR担当ヴァイスプレジデントであり、現在はAIDA LLC代表を務める会田 秀和氏が登壇。「国際競争に勝つ企業作り グローバル能力開発 人事の役割」と題し、グローバルで勝つ企業のあるべき姿と今の日本企業のギャップや、人事部門が向き合うべき課題について鋭く切り込んだ。
日本企業の国際化が遅れている理由
少子高齢化が進み、労働人口の減少が危惧される今の日本は、「はっきり言って衰退状態にある」と会田氏は断言する。にもかかわらず、切実な変革のニーズを感じないままに過ごしているのが実情なのだという。
「いくら一生懸命に取り組んだとしても、限られた枠組みのなかで同じことを繰り返しているのでは、違った結果は生まれません」(会田氏)
元P&G 米国本社 HR担当ヴァイスプレジデントであり、現在はAIDA LLC代表を務める会田 秀和氏 |
だが、政府もただ日本が衰退していくのを眺めているわけではない。新しい働き方を確立し、国際競争力を高めるために、雇用規制の緩和や女性・高齢者の活用、成果主義の導入など、さまざまな試みをスタートしている。そうした動きのなかには、国際化やイノベーション推進への取り組みも含まれる。
「日本発のイノベーションは、ほとんどが研究開発といった技術部門から生まれていて、他の部門は関与していません。けれども、日本人が持つテクニカル面の優秀さと、間接部門の働きを合わせれば、日本はもっとすごい国になるはずです」(会田氏)
氏は、日本企業の国際化が遅れをとっている理由として、「国内市場が大きいということもあるが、何より、経営トップのリーダーシップと戦略性の欠如が挙げられる」と指摘する。
グローバルでビジネスを展開していくために、何か努力しなければと懸命に考えてはいるものの、過去の成功モデルに対する執着を捨てきれない部分があまりにも大きいのではないかというのだ。
こうした現状に対し、氏は「海外に進出するには、明確な定義と戦略が必要」とアドバイスする。つまり、自社にとって成功とは何かを定義し、そのために何をやるのかを考え、決意するということだ。一見当たり前のことのようだが、「御社にとって成功とは何ですか? グローバリゼーションとはどういうことですか? 具体的に何をやるんですか?」と尋ねても、答えられる企業は意外と少ないのだという。
一方で、個人の能力に関してはどうだろう。これに関して、氏は「グローバル能力とは英語力のことだと誤解している企業が多い」と嘆く。そして、「英語が話せればよい」と単純に捉えていることにより、本来磨くべき「グローバル能力とは何か」が定義されないままに教育が進んでしまう。
かつて氏が在籍したP&Gで日本人の強みと弱みを分析したところ、「日本人は、問題が明確に提示されれば解決能力は高く、実践力もあり、チームワークや企業倫理にも長けている。だが、グローバルコミュニケーション能力は低く、戦略的思考に欠けている」という結果が出たという。そして、戦略的思考がなければリーダーにはなれない。
では、日本人にとってのグローバル能力とは何なのか。会田氏は「英語ができても、それだけでは役に立ちません」と断言する。
「技術力や専門知識を持っていることが必要です。けれども、日本式の部署をたらい回しにする人事では専門性は培われません。私は大学で組織変革を学び、HRに30年以上携わってきました。人事部に数年いた人と比べたら、私のほうが理論性も戦略性もあるに決まっています。私たちは『外』に出れば、そういう戦いになるのです」(会田氏)
会田氏は、「グローバルになればなるほど、専門性の戦いになることを理解してください」と繰り返す。専門性があれば、影響力を持って意志決定ができるからだ。反対に専門性がなければ、コンセンサスに頼るしかない。「協調」を良しとする日本人にとってはなじみのある方法だが、同じやり方を繰り返していては、現状は打破できない。
専門性を育成するために、まずは「たらい回しの人事を廃止するべき」だという。
「働くというのは会社に入ることではなく、キャリアに飛び込むということを意味します。現に、ヘッドハンターが質問するのは、勤務先名ではなく『どういうことをやっているのか』です」(会田氏)
専門知識の育成制度を作り、部門別キャリアを育てる。その際には、育成における上司の役割を明確にしておくことも重要だ。コンピテンシーを定義し、従業員に求める専門性を提示して培っていく。いずれも既に欧米では実践されていることだという。