企業のマーケティング担当をされている方から、「オウンドメディアを作ってみたいのだけど」という相談をいただいたことが何度かあります。オリジナルコンテンツだけで作るのではなく、まとめサイトやキュレーションメディアで、というお話もありました。
そんな昨年の後半、いわゆるキュレーションニュースサイトの問題が大きく取り上げられました。広告収益を目的としたWebメディアで、他のWebサイトからの無断転載など著作権の問題があるコンテンツや、そもそも不正確な内容のページをキュレーションと称して濫造して、SEOによってページビューを稼ぎ、広告収益を狙うメディアサイトについての問題です。
特に正確性が求められる医療系のメディアが大きく取り上げられ、WELQ騒動などとも呼ばれていました。
オウンドメディアにおけるキュレーション活用例
もちろん、著作権の問題や、きちんと取材せずに不正確な内容の記事をまとめていたことが問題であって、キュレーションやまとめ的な手法自体が一概にすべて良くないわけではありません。
例えば、「Kindai Picks」というサイトがあります。
近畿大学のオウンドメディアと言えるサイトで、大学に関連した情報を、大学発のニュースだけでなく、他のメディアの掲載事例も合わせて紹介しています。近畿大学がどんな大学なのか、在学生/卒業生にどんな人物がいるのか、世の中にどのような影響を与えているのかがわかるため、受験を検討している高校生や、後輩らの活躍を期待するOBやOGにとって価値の高いサイトになっています。
実際に、メディア企業ではない一般企業が、取材から記事作成までを自社でこなして、たくさんの記事を公開することは簡単ではないため、近畿大学のような手法はとても有効と言えます。
他にも、コンテンツの表現手法として、一度自社のサイト内で作成した記事を、改めて関連トピックでまとめて、一つの新しい記事として公開するという手もあります。このように、キュレーションやまとめ的なコンテンツも、オウンドメディアの活性化に上手く活用できるのです。
オウンドメディアの目的や役割を思い出そう
WELQ騒動においては、問題のあるメディアサイトの記事が、検索サービスにおいて検索結果の上位に表示されてしまっていたことも、問題を大きくした要因の一つでした。
誘導された閲覧者に対してメディアが広告を掲示することで、広告収入を得られるのです。このように検索結果で上位に表示されるために、さまざまな手法が用いられたといわれています。しかし、騒動後、今年に入ってGoogleの検索アルゴリズムに修正が加えられて、このようなサイトが検索順位の上位に表示されないようになりました。
ページの閲覧数がKPIやKGIとなっているWebサイトでは、SEO手法を参考にする動きも見られました。しかし、本来のターゲットを越えた集客は、必ずしもよいことばかりではありません。これは企業のオウンドメディアや、一般的なコーポレートサイトにも当てはまります。
例えば、シックス・アパートで運営しているオウンドメディア「Six Apart ブログ」では、ページビューや自社製品(Movable Type等)の販売数は、KPIやKGIにしていません。もちろん、数字としては追跡できますが、それよりも、オウンドメディアに携わる人にとって有益だと思ってもらえることのほうが重要だと考えているからです。
グループウェアやコラボレーションツールで有名なサイボウズ社が運営する、企業発のオウンドメディアの草分け的な存在である「サイボウズ式」でも、自社の製品やサービスの直接的な販売数に拘らず、「チームワーク」と「働き方」というテーマを軸に、「会社が伝えたいこと」ではなく「読者がネタにしやすい、世の中の話題に乗る」かたちで記事を作っています。その結果として、サイボウズ自体の認知度向上やクラウド事業へも貢献しています。
オウンドメディアを運営する目的は、企業によってさまざまです。例に上げた「Six Apart ブログ」や「サイボウズ式」では、その目的は、会社の認知度や好感度の向上であって、ブランドリフトと言えます。
プロダクトを持っている企業が、もっと直接的に売上拡大を追求する目的でオウンドメディアを運営するのなら、メディアに接触した人の購入を追跡したり、購買意向を調べたりするといった運用が必要で、それは目的によって異なるのです。
ターゲットの人たちによい体験をしてもらうコンテンツ作りを
ページビューの高いメディアを持つことは、一定の価値はあるかもしれません。メディアの運営自体や、そのマネタイズが目的ならば、ページビューは重要な指標となるでしょう。
しかし、そうではなく、「Six Apart ブログ」や「サイボウズ式」の例であげたようなブランドリフトや、潜在顧客を効率よく集客することが目的なのであれば、オウンドメディアを広告収益で運営されるメディアと同じ指標で考えてはいけません。
むしろ、通常のWebサイト(コーポレートサイトや製品サイト等)と同じ感覚で運営したほうが、よい結果を産むこともあるでしょう。
なぜ、コンテンツをWebに掲載するのでしょうか。
メディアサイトであれば、購読や広告による収入をより多く獲得することが目的ですが、販売サイトであれば、集客や製品説明、販売が目的であるはずです。個人の趣味のサイトであっても、コンテンツを通した自分の表現や、同じ趣向の読者を満足させることであるはずです。
閲覧数自体も、重要な指標ですが、そもそも興味のない人にとっては、閲覧することが無駄、もしくは良くない体験となる可能性すらあります。ターゲットを明確にして、そのターゲットの人たちに対して、どうすれば、良いコンテンツを届けることができて、良い体験をしてもらえるか。それを考えてWebサイトやコンテンツを作っていくことが何よりも大切です。
著者紹介
平田 大治(HIRATA Daiji) - シックス・アパート株式会社 取締役CTO
大手通信会社を経て、ベンチャー投資事業のネオテニーに参加。Movable Typeの日本語化、執筆、講演活動などブログの啓蒙活動に取り組む。
2003年にシックス・アパートに参加し、米国本社 VP of Technology、日本法人の技術担当執行役員として、国際的な事業の立ち上げに寄与。同社退社後、ネットPRのパイオニア、ニューズ・ツー・ユーで取締役を務める。2012年10月から再びシックス・アパートに加わり現職。