[2ページ目] 国内製造業の「やればできること」「慣れていないこと」
[3ページ目] IoT時代、日本の製造業が差別化できるポイントとは?
少子化が進み、生産年齢人口が減少の一途をたどるなか、日本の「お家芸」とも言える製造業が大きな転換期を迎えている。世界を相手にビジネスで勝ち抜くにはITの力が必須であり、ロボットやAI、IoTといった最先端テクノロジーの活用は急務だ。
2月16日、東洋ビジネスエンジニアリングが開催した年次カンファレンス「mcframe Day 2017」のオープニングトークライブには、産官学それぞれから識者が登壇。製造業とITについて議論が交わされた。
登壇したのは、デンソーアイティーラボラトリー 代表取締役社長 平林裕司氏、経済産業省 クリエイティブ産業課長 西垣淳子氏、慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 白坂成功氏、イベントホストでもある東洋ビジネスエンジニアリング 常務取締役 CMO/CTO新商品開発本部長 羽田雅一氏。モデレーターはウフル 上級執行役員 IoTイノベーションセンター所長 八子知礼氏が務めた。
IT化が進む製造業の世界 - 日本の現状は?
昨今、世界の製造業を取り巻く環境は激変している。インダストリー4.0が叫ばれるなか、欧米に比べて日本はIT化の遅れが指摘されがちだ。しかし、「産」の立場で今回のセッションに登壇した平林氏は、「日本には大きな強みがある」と主張する。
デンソーアイティーラボラトリー 代表取締役社長 平林裕司氏 |
「ものづくりでは設計を知らないと製造はできないし、製造も設計をわからないとなかなかできません。我々もそうですが、開発・設計・製造が非常に近く、生産ラインを自前で持っています。『ものづくりを知っている人たちが一気通貫で完成度を上げていく』という考え方は実際に見ていても強いなと感じます」(平林氏)
一方で、「日本のエンジニアは言われたことはちゃんとこなすが、それ以上はやらない。これは強みであり、弱みでもある」と指摘するのは「学」の立場で登壇した慶應義塾大学の白坂氏だ。「日本人は、もう少し高いところに目標を設定してもできるのに、もったいない」と嘆く。氏はかつて三菱電機に勤務していた経験があり、そのドイツ出向時代にこれを実感したという。
これには八子氏も「日本人は、改善や、言われたことについてはきちんとやるのですが、逆にそれがアダになる可能性があります」と賛意を示すとともに、そうした日本人の特性を踏まえた上で、国内製造業におけるIT化の現状へと話を進めた。
「IoTが騒がれているが、実は古くからある考え方」だと語るのは平林氏だ。
氏は1989年に提唱されたユビキタスコンピューティングを例に挙げ、「当時から、インターネットで全てのものがつながると言っていました。それがなぜ、今になって急に盛り上がってきたのか」と問いかける。カギとなるのは「iPhone」「Bluetooth4.0」、そして「クラウドコンピューティング」だ。「この3つがそろったからこそ、今になってIoTが叫ばれるようになった」というのが平林氏の見解である。
これに同調するのが東洋ビジネスエンジニアリングの羽田氏だ。
東洋ビジネスエンジニアリング 常務取締役 CMO/CTO 新商品開発本部長 羽田雅一氏 |
「当時、CIM(Computer Integrated Manufacturing)と言っていたのと、今のインダストリー4.0は非常に近いです。今までやってきたことの延長線上ですし、FA化やERPに取り組んできた日本の製造業ならば、そんなに慌てることはないのではないかと思います」(羽田氏)
一方で、センサーが安価に手に入るようになり、これまで技術的・コスト的に無理だったことが可能になりつつある。ここからまったく新しいビジネスが生まれる可能性も無視できないのだ。
こうした民間企業の動きに対して、行政はどのように呼応していくのか。「官」の立場で登壇した経済産業省の西垣氏は、「自国や自分の企業だけでやっていくというより、どうやってつながって広がっていくか」が重要だとコメントする。IoT時代における各国の動きについて次のように述べた。
「ドイツが最初にインダストリー4.0に取り組み、Platform 4.0という産学官の連携の仕組みを作りました。これが母体となり、米国のIIC(Industrial Internet Consortium)と提携したり、日本で言うとRRI(ロボット革命イニシアティブ協議会)と提携したり、中国とは政府間で標準化の協力をしたりして、この3、4年進んできています。ITを活用した製造業ではスピードやスケーラビリティが重要なので、連携の動きが進んでいるのかなと思います」(西垣氏)
「産」と「官」が連携を進める一方で、「学」との連携では課題があると指摘するのが白坂氏だ。
「日本の学と産の共同研究の予算は100万円以下で、期間も1年未満。2年続かないんです。どういうことかと言うと、学が産を満足させられる結果を出せていないんです。そこに(世界と)圧倒的な差があります」(白坂氏)
「学」と「産」のつながりについては、平林氏も課題意識を持っているという。
「(学生が)GoogleやFacebook、Microsoftに行ってしまうのは、それらの企業は大量のデータを持っているからなんです。(日本企業も)データをある程度オープンにできると、産と学(の連携)もいけるんじゃないかなと思います」(平林氏)
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