富士通が発表した2017年春モデルの法人向けPCの中に、これまでにないカテゴリーのデバイスがあった。それがハンディサイズのWindowsタブレット「ARROWS Tab V567/P」だ。モバイル向けWindows 10 Mobileではなく、フル機能のWindows 10を搭載した背景とは。
手のひらサイズにフル機能のWindows 10を搭載
最近は画面サイズが6インチの大型スマートフォンも珍しくない。だが「ARROWS Tab V567/P」は、OSにモバイル向けの「Windows 10 Mobile」ではなく、PCと同じフル機能のWindows 10を搭載したことが最大の特徴になる。
CPUには、インテル製の「Atom x5-Z8550」を採用。Atomは省電力重視のCPUとはいえ、Coreプロセッサーと同じx86アーキテクチャーだ。これによりエクスプローラーやOfficeを始めとするWindowsのデスクトップアプリを、PCと同じように動かせる。
モバイル向けのWindows 10 Mobileは、コア部分をWindows 10と共有しているものの、Windowsユーザーが期待するデスクトップアプリはまったく動作しない。
このことは、マルウェアやウィルスの攻撃に晒される心配が少なくなるメリットもあるが、ビジネスの現場ではPCと同じデスクトップアプリをハンディ端末で使いたいという要求が少なからず存在する。ARROWS Tab V567/Pの厚さは15.9mm、重量は280gと、一般的なスマートフォンほどスリムではないものの、フル機能のWindowsが手のひらサイズになったことは驚異的だ。
マイクロソフトの最低要件を下回る画面サイズを実現
それではなぜ、こうしたハンディサイズのWindows 10タブレットはこれまで登場しなかったのだろうか。
実はマイクロソフトが定めるWindows 10のハードウェア要件として、画面サイズは「最低7インチ以上」という決まりがあった。確かに、6インチの画面でもWindows 10が動作しないというわけではないが、文字やアイコンのサイズなどを考えると「ユーザーが快適に操作できる」とは言い切れず、その要件が規定されているのも致し方ないことと言えるだろう。
これに対して富士通は、マイクロソフトと独自に交渉することで、6インチという画面サイズでWindows 10を動かすことに了承を得たのだという。これは、長年に渡ってマイクロソフトと関係を築いてきた「富士通への信頼」が為せる技といえるかもしれない。
実際のところ、エクスプローラーでファイル操作をしようとしても6インチの画面をタッチで操作するのは難しく、「さすがに無理があるのではないか」と感じる人は多いだろう。
しかし富士通は、病院における実証実験の結果から「業務用アプリの画面レイアウトを調整する」対策を見いだし、この問題をクリアしている。Windows 10 Mobileに対応させる場合はアプリの大部分を作り直す必要が生まれるが、Windows 10であれば画面レイアウトの調整だけで済むのは大きなメリットといえる。
「モバイルでフルWindows」のトレンドを先取り
2016年末には、マイクロソフトがクアルコム製の「Snapdragon」プロセッサーでデスクトップアプリを含めたWindows 10を動作させる計画を発表。2017年後半には、フル機能のWindows 10を搭載したモバイルデバイスが登場する見込みだ。
だが、こうした新しいプラットフォームが法人向けに耐える水準にまで成熟するには、相当の時間がかかると富士通は予想する。「ARROWS Tab V567/P」は、こうしたトレンドを先取りしつつも、すでにノウハウが確立したAtomとWindows 10を組み合わせることで即戦力を狙った商品といえる。