IoTのためのBLE?

ワイヤレス通信として、Wi-Fiに次いで使われている、もしくは知られているのはBluetoothではないでしょうか。マウス、キーボードはじめヘッドセット等でも使われています。スマートフォンでは、クーポン配信などで活用されているbeaconの通信方式としても利用されています。

一口にBluetoothと言っても、通信速度、方式の違いから大きく4つの通信モードに分けられます。

  • BR(Basic Rate)モード
  • EDR(Enhanced Data Rate)モード
  • HS(High Speed)モード
  • BLE(Bluetooth Low Energy)モード

Bluetoothの仕様としては、主なものとして Ver1.1/1.2/2.0/2.1/3.0/4.0/4.2があるのですが、バージョンが1.x → 2.x → 3. x → 4.xと進むにつれてサポートする通信モードが1つ増えてきています※1

※1 Bluetooth 5が2016年末正式リリースされましたが、まだ製品の普及には至っていませんので本コラムで扱うBluetoothはバージョン4.2までとします。

仕様書バージョン/モード/通信速度の関係をまとめると図1のようになります。

図1 : 仕様バージョンとサポートモード/通信速度の関係

Bluetooth Low Energyモード(以下、BLEモード、もしくはBLE)は、通信速度面では、BRモードと同じなのですが、大幅な省電力化が図られています。

マウス・キーボード用途では、高速通信の必要性がありませんが、連続的なデータのやり取りが発生しますし、音声用途では、連続通信に加えてより高速での通信が求められます。

一方、温度、湿度、気圧といったセンサ情報(観測情報)は、連続である必要は少なく、1秒に1回とか、1分に1回程度(場合によっては、時間単位、日単位ということも)の更新で十分な場合も多いです。この場合、通信しない時間が多いので電源をオフにすることで、電力消費を抑えることが可能となります。

電源のオフ・オフを適正制御することで電力消費を抑えることで、電池だけで駆動させられるうえ、その交換タイミングを年単位に伸ばすことができ、運用面の利便性を向上させています。

こういったBLE特有の制御を行っているためもあってか、BLEモードと他のモードとの互換性はなく、Bluetoothと謳った製品でもBLEモードをサポートしていない機器とは通信ができません。

BLEの誕生経緯

BLEの前身は、フィンランドのNokia社が、Bluetooth通信が抱える電力問題等を補完するために開発し、2006年発表した「Wibree(ワイブリー)」です。

その後、Bluetooth規格に統合され、Bluetooth 4.0仕様のBLEモードとして2010年Bluetooth標準化団体Bluetooth SIGよりリリースされました。そういった経緯もあって、従来のBluetoothモードとは性質を異にしているのかもしれません。

BLEは、IoTブームに乗って誕生した規格ではありませんが、歴史的経緯や仕様の管理面から見ても、省電力通信としてIoTを牽引している通信方式であることは間違いありません。

Bluetoothロゴのおはなし

Bluetoothの規格は少々変わっていて、Bluetooth 4.x仕様準拠と謳っても、4つのモードすべてを搭載する必要はないようです。BLEモードのみ搭載の機器を販売してもいいですし、BLEモードを搭載せずに、BRモードのみ、BRモード+EDRモードのみ搭載の機器も販売可能です。ただし、BRモード、BLEモードのどちらかは搭載する必要があるようです※2

※2 HSモードは、無線LANをベースとしていることもあり、周辺機器では搭載されないことが多いようです。また、PCでの小電力動作は想定されていないことから、BLEモードのみのBluetooth 4.0準拠PCも存在しないようです。

ややこしいですね。

そこで購買者の混乱を招かないように、BLEモード対応可否を区別するロゴを策定しています。

Bluetooth SMART

BLEモードのみに対応している(シングルモードともいいます)製品には「Bluetooth SMART」というロゴが適用されます。

Bluetooth SMART Ready

BLEモードに加えてBRモード、EDRモード、HSモードに対応している(デュアルモードともいいます)製品には、「Bluetooth SMART READY」というロゴが適用されます。なお、EDRモード、HSモードはオプション扱いですので、製品よってはサポートされていない場合もあります。

Bluetooth

BLEモードをサポートしてないBluetooth製品(クラッシクBluetoothともいいます)には”Bluetooth”のみのロゴが使われます。

少々わかりづらいと思いますので図1と絡めてまとめると図2になります。

図2 : モードとロゴの関係

Bluetooth規格におけるその他の概念としては、通信距離を示すClass(Class1:最大100m/Class2:最大10m/Class3:最大1m)、プロファイル、ペアリング というものがあります※3

※3 BLEにもペアリングという概念は存在しますが、実装はオプションです。クラシックBluetoothでみられるPINコードによるペアリングを行うことは少ないようです。

BLEにも、プロファイルという概念が存在します。クラッシックBluetoothのプロファイルについては、本コラムでは触れませんが、BLEのプロファイルについては、連載の中で触れたいと思います。

BLE対応機器の確認方法

技術的な解説はここまでにして、手持ちの情報端末がBLEに対応しているか実際に確認してみましょう。

BLE通信を行うには、BluetoothデバイスがBLEに対応していることに加えて、OS側もBLEをサポートしている必要があります。

情報端末が、Androidフォン/タブレットの場合はバージョン4.4以降(4.3は一部制限あり)、iOSの場合はバージョン6以降である必要があります。

製品/型式としては、iPhoneで4S以降、iPadでiPad Pro以降になるでしょうか。

Androidフォン/タブレットの場合、複数のメーカが市場に製品を投入していて、製品名/型式をここに列挙するのは難しいので、アプリを利用して確認します。

Google Playストアから「BLE Central, Peripheral Check」をインストールして、実行してみてください※4

※4 ご紹介したアプリは安全性が高いと思われますが、インストールは自己責任でお願いします。iOS向けにもチェックアプリとして「Bluetooth Info」が存在します。ただし、有料アプリなので、お試しになる場合はご留意ください。また、インストールに関しても自己責任でお願いします。

「Central supported」「Peripheral supported」のいずれか、もしくは、両方が表示されれば、手持ちのAndroid端末は、BLE対応です。

以下は、クラシックBT、BLE(Central/Peripheralとも)サポートされた端末での実行結果を示しています。

アプリ実行結果

Central/Peripheralという新しい言葉出てきましたね。これが何を意味するかは――次回までお待ちください。

BLE対応状況をPCで確認するには

参考までに、Windows/OS Xの場合は

  • Windows: 8.1以降
  • OS X: V10.11以降

であれば、OS側の要件は満たしているようです。

BLEモード対応状況の確認方法は、Windows:「デバイス マネージャー」 > 「Bluetooth」を選択し、「Microsoft Bluetooth LE Enumerator」が表示されること。

OS x: アプリケーション > ユーティリティ > システム情報から、「ハードウェア」タブ > Bluetoothを選択し、「Bluetooth 低エネルギー(BLE)対応」が「はい」と表示されること。

ただし、BLEデバイスを提供しているどのメーカも、Windows/OS x対応アプリ(サンプル実装)は、積極的に提供していないようで、筆者自身は出会っていません。

しかしながら、PSoC BLE Pioneer Kit付属のBLEドングルを利用すると、BLEドングルとホストPC間の通信はシリアル通信で行えるため、比較的アプリ開発が容易です。PSoC BLE Pioneer KitメーカであるCypressさんもBLEドングル経由のWindowsアプリも提供されています。

このBLEドングルに関しては、次回以降のどこかで触れたいと思います。

著者紹介

飯田 幸孝 (IIDA Yukitaka)
- アイアイディーエー 代表 / PE-BANK 東京本社所属プロエンジニア

計測機器開発メーカ、JAVA VMプロバイダの2社を経て、2007年独立。組込機器用ファームウェア開発に多く従事。2015年より新人技術者育成にも講師として関わる。PE-BANKでは、IoT研究会を主宰。

モノづくり好きと宇宙から地球を眺めてみたいという思いが高じて、2009年より宇宙エレベータ開発に、手弁当にて参画。 制御プログラムを担当。一般社団法人宇宙エレベータ協会主催「宇宙エレベータチャレンジ2013」にて、世界最長記録1100mを達成。

宇宙エレベータ開発のご縁で静岡大学の衛星プロジェクトStars-Cに参画。2016年12月、担当ユニットが一足先に宇宙に行き、地球を眺める。