鉄道系のSIなどを行うビーマップが提供する通訳サービス「J-TALK」。昨今、機械翻訳の精度向上により、さまざまなサービスが提供されているが、J-TALKはオペレーターによる翻訳サービスを提供する。なぜ、人件費がかかる通訳者による翻訳を行うのか、ビーマップ 代表取締役社長の杉野 文則氏に話を伺った。

ビーマップ 代表取締役社長 杉野 文則氏

通訳者が通訳してくれるアプリ

同社は、鉄道系予約システムやWi-Fi環境の構築、O2O(Online to Offline)の環境整備などの事業を手がけている。公共交通機関との距離が近い同社には、インバウンド需要への対応としてWi-Fi環境の整備とともに、言語の壁の問題を顧客から相談されるケースがあったそうだ。

「私自身、英語がぜんぜん駄目。海外へ出張へ行っても、言葉がわからないからどこへ出かけるにしても不安を抱いてしまい、行動範囲が狭くなる。そうした自身の体験から、翻訳をリアルタイム、かつ正確に行えるものが重要だと思い、J-TALKを始めたんです」(杉野氏)

J-TALKは、2015年10月にサービス提供を開始し、法人向けに月額1万5000円個人の海外旅行者向けに1週間3700円(いずれも税別)の価格で提供している。しかし、この数年のスマホの普及によって、Google翻訳を始めとする機械翻訳による無料のWebサービス/アプリを活用するケースは多い。後発のJ-TALKが、あえて機械翻訳を使わず、しかも通訳者の有料翻訳サービスを提供する意味、意義はどこにあるのだろうか。

位置情報やカメラ、ホワイトボード機能などで利用者を多角的にサポートする

「顧客のところに話を持っていくと、『機械翻訳は使い物にならない』という答えがまだまだ多い。私も海外などで使ってみたことがありますが、簡潔な会計などのやり取りは翻訳サービスを使わなくてもいいし、しっかりと会話をしようとすると、全く無理という印象です。航空会社や鉄道会社の方も、『まだしばらくは(機械翻訳は)無理なんじゃないか』と話している」(杉野氏)

当分は人が介在する必要性を感じた杉野氏は、通訳者を活用するシステムを検討。しかし、一般的なコールセンター方式による通訳ではなく「クラウドソーシング型通訳センターシステム」の運用を目指した。本質的には、海外におけるUberのようなクラウドマッチングのシステムだが、日本国内に滞在している留学生などとのアルバイト契約によって通訳機能を提供しているという。

「コールセンター方式で人を揃えようとすると、固定費が大きくなってしまうほか、春節などで日本に大量の観光客が来日した際、増大する需要にしっかりと対応できないケースもある。一部コールセンターも使っているが、留学生を含めて通訳者が応答しなければ別の通訳者に呼び出しを回すシステム構築を行っており、誰かしら、必ず受けられるようにしている。

通訳の品質については、九州大学のマスター、ドクターレベルの優秀な留学生が多く参加しているという。彼らがすなわち、日本語や英語、中国語の翻訳をできるとは限らないが、Uberのように翻訳品質の評価機能を設けており、最低限の品質維持をコミットしている。このシステムは彼らにとっても好都合で、コンビニの店員などの単純労働で時間を割くよりも、通訳の待機中は勉学に取り組む時間が確保できるので、前向きに取り組んでくれている」(杉野氏)

クラウドマッチングのシステム構造と留学生のアルバイト採用によって、コストダウンを図っているJ-TALKだが、留学生の採用は「言質の文化的背景を理解できる」という副次効果もあるそうだ。例えば「訪日外国人が日本人とトラブルになっている」「本来の目的地とは違う場所に来てしまったようで、目的地を教えたいけどどのように伝えればいいのかわからない」という時に、機械翻訳では難しい「温度感」が重要になると杉野氏は説く。

一部でコールセンターも利用しているが、日本への留学生や、海外在住の日本人などをシステム上でマッチングさせ、リアルタイムの通訳環境を提供している