KDDIは9月26日、アクセラレータプログラム「KDDI ∞ Labo」の第10期デモデイを開催した。

第10期では、これまでのインキュベーションプログラムからアクセラレータプログラムへと方針を転換し、従来から対象としていたシード期に加えて、アーリー期に当たる、すでにサービス提供済みの企業からも応募を受け付けた。

オリジナルプログラム

サービス名 メンター企業 サービスコンセプト
isaax KDDI 誰でもIoTが始められるPaaS
AxelGlobe 日本マイクロソフト、凸版印刷、KDDI 超小型衛星を活用した宇宙ビジネス
軽town グーグル、KDDI 軽貨物運送のマーケットプレイス
Spoch 凸版印刷、ソフトフロントホールディングス
日本マイクロソフト、KDDI
スポーツチームのための
動画コミュニケーションアプリ
Voicy Supership、日本マイクロソフト、KDDI テキスト情報を”声”で
提供するニュースアプリ
ラントリップ KDDI ランニングのコミュニティアプリ
RoomCo KDDI インテリアの”試着”アプリ

ハードウェアプログラム

サービス名 メンター企業 サービスコンセプト
スマート水田サービス paditch ザクティ、凸版印刷、KDDI 水稲農家向けのスマート水田サービス
MAMORIO クレディセゾン、ソフトフロントホールディングス、KDDI 紛失防止IoT製品

10期で起きた変化

10期では、毎期初に行われていたプログラム参加チームのお披露目が行われず、デモデイで初めて対外的に公表される流れとなった。これは、アクセラレータープログラムへと移行した影響もあるのだろう。MAMORIOやラントリップなどはすでにサービスをロンチしており、少なからずユーザーを抱えている。「0→1」を強く謳っていた6期以降の流れとは異なるもので、いかに「既存企業(大企業)とのシナジーを生み出し、サービスが定着する下地を作れるか」に注力していたかがうかがえる。

プログラムに参加した大企業は31社まで拡大し、競合関係にある企業が揃って名を連ねるなど、スタートアップ支援という枠組みへの期待感が見え隠れする。実際、大企業が待ち望むコラボレーション例が多く生まれたのが10期の成果の一つだろう。9期では事業化にこぎつける実証実験や事業連携例が0に終わったのに対し、10期では実証実験が9件、事業連携が3件生まれるなど、パートナー企業にとっても「美味しい」状況になりつつある。

例えば、「物をなくす、をなくす」をコンセプトに、Bluetooth Low Energyを活用した紛失防止IoTタグのMAMORIOは、通常の機材管理に応用できることから、日本航空とテレビ朝日が実証実験への参加を表明した。意外なところでは、水田の水管理をIoT化して少子高齢化対策、大規模農業化を行う「paditch」との実証実験に凸版印刷が参加。米の生産量拡大と、取得データ品質の向上を目指して、ドローンなどのセンシングサービス・データと連携し、相互に開発協力を行う。

Paditchは水位を監視し、管理業務の効率化を図る

さらに一歩進んだ事業連携例では、KDDI子会社のau損害保険が、IoTタグと保険を組み合わせた「MAMORIOあんしんプラン」を10月より提供する。IoT版FinTechとも呼べるこのサービスは、登録した製品にタグを備え付け、紛失時にMAMORIOで発見できなかった場合に盗難補償を行うというものだ。1デバイスあたり年額1000円(税別)で、鍵やカバンなどが最大2万円、財布が最大3万円まで補償される。

MAMORIOは一部量販店で販売が開始されているBluetooth Low Energyを活用したタグ

また、ラントリップの事業連携では、近畿日本ツーリストとタッグを組み、温泉地における旅館のランナーサポート施設化を提案し、新たな旅行プランの提案を行っていく。ダイエットなどのトレーニングランとは異なる「ファンラン」の需要を、既存のランニングサービスでは拾いきれていない点に着目したラントリップは、今後もさまざまな企業とのコラボレーションを検討しているという。

最優秀賞は?

ここまでの説明では「オープンイノベーションの名のもとに、大企業がスタートアップを食い物にしているだけ」という話に見えなくもない。ただ逆に、明確に「スタートアップが大企業を食ってやる」といった意欲的なチームも存在する。

その一つがAxelGlobeで、将来的に50基に及ぶ超小型衛星を軌道上に打ち上げ、世界中を毎日観測できる衛星インフラを構築する目標を掲げている。1日スパンでほぼリアルタイムとも言える衛星画像によって、森林管理、不動産用地の候補地選定、農場の刈り取り時期選定といった多様な活用手法が検討できるため、三井不動産や三井物産、アマナなど業種・業態を問わず実証実験の希望が届いているという。

AxelGlobeは人工衛星を50基打ち上げる構想を持つ

また、デモデイ参加者から高い評価を得ていたチームがある。ARアプリ「RoomCo」を提供するリビングスタイルで、無印良品やFrancfrancなどの国内有名インテリアブランドの30万製品をすでにデータベース化している。このデータをARで宅内に表示し、自宅の雰囲気にあったインテリアを、スマートフォン1つで決められる世界観を持つ。新築マンションで図面しかない状態であっても家具選定ができるよう、図面にARタグを配置するだけで小さな家具を再現し、コーディネートを考える機能も用意している。こちらは、住友不動産と東急不動産、三井不動産レジデンシャルが、実際に購入を検討するユーザーに対してARタグを配布する。

RoomCoはARタグを活用してインテリアコーディネートできるアプリだ

最優秀賞に相当する「KDDI ∞ Labo賞」は、軽townが受賞。荷物を運んでほしい荷主とドライバーをマッチングする軽貨物ドライバー配車サービスで、元国土交通省の松本 隆一氏が小口配送の非効率的な手配スキームの置き換えを狙って2014年よりサービスを展開している。松本氏自身が「Uberの軽貨物版」と語るサービスは、ヤマト運輸や佐川急便、日本通運の大手3社が2.6兆円の売上高である一方、6万3000社で14.3兆円の大部分を、マッチングによる物流最適化によって、コスト減、人手不足、下請構造の解消を目指す。メンター企業としてグーグルが参画しており、アプリUI/UXの改善や、Google Cloud Platform、Google Mapsの導入を行ったそうだ。

物流版Uberを目指す軽town

>>11期への期待