「分散型メディア」「Distributed Media」という言葉を聞いたことがありますか?

去年あたりから、海外のメディアなどでよく語られるようになった新しいメディアの考え方で、BuzzFeed や NowThis といった海外のニュースメディアがその代表格と言われています。

今回は、この「分散型メディア」とは具体的にどのようなものか、また、そのメリットとデメリットについて考えてみましょう。

分散型メディアの代表格「NowThis」のWebサイト。サイトを訪れても、SNSアカウントへのリンクしか用意されていない

分散型メディアとは

これまで、Webを使って情報発信を行おうとする際には、自分たちでWebサイトを運営し、そこにコンテンツを置くことを考えてきました。

自分でコントロールしているWebサイトであれば、当然ながら、コンテンツを自由に設置したり編集したりすることが可能です。そのWebサイトに存在するコンテンツに、Google などの検索サービス経由や、他のWebサイトにあるリンク、ソーシャルサービスでのシェア、もしくは広告などによって読者を集めてくる、という流れです。

これに対して「分散型」と呼ばれるメディアでは、コンテンツそのものをSNSなどの他メディアにそのまま配信してしまいます。自分たちのWebサイトを持つこともありますが、リンクを張って誘導するのではなく、配信先のメディアでコンテンツを閲覧してもらう、という形をとります。

コンテンツの運営は配信先が行うことになるため、制作側からするとさまざまな制約が存在します。しかし、このスタイルをとっている媒体は、それを上回るメリットがあると考えているのです。

読者重視の運営スタイル

読者の立場で見ると両者の体験は大きく違います。

リンク先を読み込まないと内容が確認できないこれまでの形では、サイトを来訪するためにクリックする一手間がかかる、にもかかわらずせっかく開いた記事が期待する内容でなかった、場合によっては間に広告など見せられる、というようなこともありました。

しかし「分散型」の場合、その場で記事自体が配信されているため、興味があれば即座に全文を読むことができます。ストレスを感じません。つまり、読者の利便性を重視した形と言えるでしょう。

「分散型」へ流れる要因と、そのビジネスモデル

このようなメディアの出現にはいくつかの要因がありますが、大きな要因の一つはソーシャルサービスのプラットフォーム化です。

YouTubeやFacebook、Twitterといったサービスは、すでに大規模なユーザーを確保し、ユーザーの可処分時間をより多く獲得するために争っています。そのため、他のWebサイトへユーザーを流出させないように、コンテンツをプラットフォームに集める施策の一環として、コンテンツそのものをプラットフォームを通して配信できる仕組みを整えてきています。

また、スマートフォンの普及で、ブラウザではなくアプリの利用時間が伸びていることも要因の一つです。ソーシャルサービスなどのアプリ利用は、ユーザーの可処分時間の大きなシェアを占めるようになってきているのです。

では、分散型メディアのビジネスモデルはどうなっているのでしょうか。

これまでは、コンテンツを掲載したページの広告掲載料が主な収入源でしたが、コンテンツを他のメディアに掲載してしまったら、その収入が失われてしまいます。そのため、分散型メディアを取り巻くビジネスモデルは、従来のWebメディアのそれとは大きく異なるのです。

例えば、BuzzFeed では、ネイティブ広告というかたちで、編集記事と同様のフォーマットで作られたスポンサー付き記事を配信することなどで、収入を獲得しています。

また、プラットフォームからは、広告収入の分配やアクセス情報の提供、掲載する広告を制御する仕組みなども用意されています。例えば、YouTubeの広告収入を分配する仕組みは有名で、YouTuberと呼ばれる、広告分配収入だけで生活するクリエイターも登場してきています。

分散型メディアの考え方は、メディア運営を直接のビジネスとして捉えないオウンドメディアでも参考になるでしょう。特に、コンテンツからのコンバージョンよりも、コンテンツ自体に触れてもらうことを目的と考えたとき、想定する読者がいるプラットフォームに直接コンテンツを配信することは、理にかなっています。

効率的にコンテンツを配信する仕組みの整備が必須

分散型メディアといっても、コンテンツの管理と配信の仕組みは重要です。

分散型メディアとして運営するサイトは、必ずしもWebサイトを持つ必要はなく、例えば、動画ニュースに特化する NowThis は、自分のWebサイトでの配信を止め、すべてのニュース配信をソーシャルメディアに移行してしまいました。

しかし、いずれにしても複数のメディアに効率的にコンテンツを配信するためには、コンテンツを管理し、それぞれのメディアに適したフォーマットに変換して配信する仕組みとしての CMS がとても重要になってきます。

例えば、Facebook Instant Articles(インスタント記事)では、RSS に独自のルールを加えたフォーマットですし、iOS のニュースアプリでは、JSON フォーマットを採用しています。このようにそもそも配信の方法が違いますし、プラットフォームごとにオーディエンスも違うので、配信内容にも気を遣ってそれぞれに最適化を行う必要があります。

このようなことを属人的に行うのは効率が悪いので、やはりCMS をカスタマイズして各メディア向けの変換を自動化することが求められます。Movable Type の場合は、Facebook Instant Articles への配信フォーマットに対応したプラグインが公開されていますが、こうした CMS をハブにして、さまざまなメディアと繋いでいくことで、効率的な配信を行うことができるのです。

分散型メディアは、評価方法や収益化など、まだまだ課題もありますし、プラットフォームの意向次第で、存続も含めて大きな影響を受ける可能性もあります。そのため手法やノウハウが固まっていませんが、先行者利益という点ではチャレンジする価値があるものと言えるでしょう。

著者紹介


平田 大治(HIRATA Daiji) - シックス・アパート株式会社 取締役CTO

大手通信会社を経て、ベンチャー投資事業のネオテニーに参加。Movable Type の日本語化、執筆、講演活動などブログの啓蒙活動に取り組む。

2003年にシックス・アパートに参加し、米国本社 VP of Technology、日本法人の技術担当執行役員として、国際的な事業の立ち上げに寄与。同社退社後、ネットPRのパイオニア、ニューズ・ツー・ユーで取締役を務める。2012年10月から再びシックス・アパートに加わり現職。