KDDIは今年より施行された祝日の山の日にあわせ、報道陣向けに富士山に関連した取り組みの説明会を開催した。
同社はこれまでにも富士山の登山者を対象にしたさまざまな施策を打ち出しており、2014年にはLTEの150Mbpsサービスを山頂で利用できるようにしたほか、2015年にも訪日外国人向けの公衆無線LANサービス「TRAVEL JAPAN Wi-Fi」のプレミアムコード提供をWi2らパートナー企業とともに提供した。
今年は、新規施策がないものの、公衆無線LANサービスを「富士山 Wi-Fi」として国内ユーザーにも全開放したほか、LTEサービスのエリア品質の向上や、昨年同様に「富士山保全協力金」を支払った人(今年は登山届提出者を含む)を対象に、モバイルバッテリーの配布(先着1000名)も行っている。
観光と災害対策を両立するWi-Fi整備
これらの取り組みはKDDIが主体だが、静岡県や山梨県との協力という意味では契約ユーザー以外の登山におけるライフラインにもなる。実際、静岡県 文化・観光部 観光交流局 観光政策課 企画班 主査の原田直幸氏によると「訪日外国人はスマートフォンのデータ通信をWi-Fiに頼るケースも多く、そうしたユーザーへのサポートになれば」という狙いもあるそうだ。実際に、昨年の「TRAVEL JAPAN Wi-Fi」はおよそ2000名の訪日外国人が利用。年間30万人、その内のおよそ1割が外国人といわれる富士登山者の中でも、決して少なくない数に上っていた。
また、富士山も活火山の一つとして巨大災害の恐れがあるため、緊急時の通信インフラの一つとしても整備する意義がある。富士山 Wi-Fiはキャリアフリーで誰もが利用できる上、万が一の災害時には当然ながら「00000JAPAN」の運用も行われる。熊本地震の直前に掲載した記事でも無線LANビジネス推進連絡会 運用構築委員長の大内 良久氏らが指摘していたように、災害対策と観光振興の両立はWi-Fi整備の鍵の一つとなる。
ただ、観光振興としてのWi-Fi整備に対して自治体が関与できる余地はあまり大きくないと原田氏。というのも、飲食店などが1個数万円のWi-Fiルーターを導入するために半額を自治体が拠出するとして、その手続きに書類作成や行政上の処理などの労働コストを考慮すると、その支援がかえって無駄になってしまう可能性があるからだ。
政府による観光・防災Wi-Fiステーション整備事業や公衆無線LAN環境整備支援事業などでは、事業実施主体が一括して補助費用を受け取るといった枠組みもあるが、公募選考などの仕組みが煩雑で迅速な整備に繋がるかといえば疑問が残る。富士山 Wi-Fiでは、全山小屋49カ所と富士山静岡空港の整備がスムーズに行えたものの、これは静岡県に加えてWi2ら民間企業の協力があってこそ。補助金を待ち望むよりも、一定のコストをかけた上で能動的に”稼ぐ”ことを意識したWi-Fi整備が重要といえるだろう。