ソフトバンクは7月21日、22日に法人向けイベント「SoftBank World 2016」と、Pepperの法人活用事例やアプリケーションを紹介する「Pepper World 2016 夏」を開催した。直前の20日には、報道機関向けにPepper for Bizの最新動向を紹介する記者説明会を行った。(関連記事:ソフトバンクはARMでシンギュラリティを超える - SoftBank World 2016)
カテゴリごとにロボアプリを提供へ
Pepperはすでに一般消費者向けにも販売が開始されているが、3年で約100万円というコスト負担から法人への導入が先行している。細やかな企業ニーズに対応できる「Pepper for Biz」や、簡易業務のニーズに対して時間単位でレンタルできる「ロボット人材派遣サービス(cocoro SB提供)」、ソフトバンク以外の事業者によるレンタルサービスなども広がる。
Pepperは5月にAndroidへの対応を発表。より幅広い開発者が携わるAndroidを組み込むことで、さらなる「ロボアプリ」開発者の拡充を狙う。アプリはNAOqi OSを置き換えるものではなく、胸部のAndroidタブレットがNAOqi OSとAPI連携することで動作する。
これに加えて、20課の説明会では「Pepper for Biz 2.0(以下、Biz 2.0)」としてサービスを拡大。Pepperを活用したコンテンツ制作の利用機会拡大を図るほか、ニーズの高いカテゴリ別にロボアプリを整理して28種類のロボアプリを8月以降に順次提供していく。名称は、これまでの「ロボアプリ&クラウドサービス」から「Biz Pack(ビズパック)」へ変更。カテゴリは「インバウンド」「接客」「ヘルスケア」「受付」を用意し、今後も拡大していくという。
これらの取り組みは、「パーソナルロボット」というモノ珍しさから集客ツールとして利用されてきたPepperが、次のステージへ歩みを進めるための第一歩と言えよう。もちろん、「ロボデコレーション」と呼ばれる着せ替えサービスがBiz 2.0と同時に発表されたように、見た目だけで顧客を呼び止められる要素がないわけではない。
ただ、Pepperが発表されてからすでに2年が経過しており、家電量販店などの店頭で目にすることも珍しくなくなった。ましてやソフトバンクはショップへの配備を全国規模で進めており、いたるところで同じ見た目のロボットを見るのは「食傷気味」と言っても言い過ぎではないように思う。
ロボットである魅力を最大限に活かしたアプリが徐々に
そこでPepperの本分に立ち返ってみれば、「感情を持ったロボット」として所有者を認識できる賢さを持ちあわせており、企業利用の側面で言えば「ルーチン化された業務を低コストで、なおかつスマートにこなせる存在」としての価値がある。Biz 2.0は、その”ロボットに求められる仕事”を徹底的にパッケージ化した、Pepperプラットフォーム上のソリューションということになる。
あまり知られていない活躍シーンでは、介護現場でのエンターテインメントコンテンツの提供にPepperが使われているほか、製造現場の人手不足解消、消費者アンケートなどがある。Pepper World 2016 夏でもBiz Packに含まれるさまざまなアプリケーションのデモンストレーションが行われていた。
例えば、リクルートライフスタイルがタブレット端末向けに提供している待ち時間解消アプリの「Airウェイト」や、Payke(ペイク)提供のバーコードをPepperに読み取らせることで商品情報を伝える「バーコード多言語案内」は、本来スマートデバイスでも利用できるアプリだ。ただ、人間に近い存在のロボットに作業を代行させる、話しかけづらい、もしくは機能の存在を知らないユーザーに利用させる動機付けに繋がる。
ロボットのメリットを最大限に活かす例では、エクシングの介護施設向けレクリエーションアプリ「健康王国レク for Pepper」や、アスラテックとM-SOLUTIONSの「VRcon」がある。
健康王国レクは、先述の介護現場におけるエンタメコンテンツの活用アプリだ。介護施設では、一般的にイメージされる身体のケアという介護活動以外にも心身のケアのためのレクリエーション活動が行われる。人手不足が叫ばれる介護業界だが、このレクリエーション活動をPepperにアウトソースできれば、業務効率化、ひいては人員配置の最適化に繋がる。
もちろん、「人間が相対することが心身のケアに繋がる」という声もあるだろうが、以前神奈川県川崎市で行われていた介護事業におけるロボット活用の実証実験の現場を取材したところ、多くの入所者がPepperと運動体操を楽しく行っている様子が見られた。一日中Pepperと戯れることは現状では難しいと思われるが、一方で短期集中型で30分~1時間程度Pepperにレクリエーションを任せることができれば、職員の負担軽減や事務作業などにリソースを回せることだろう。
一方のVRconは、Pepperを含むロボットを遠隔操作できるシステムで、小売業などでの利用を想定している。ヘッドマウントディスプレイで遠隔地にあるPepperが操作できるため、例えば人員の足りない店舗で”0.9人前の店員”としてPepperを活用できる。
また、アスラテックはインバウンド対策としての活用も想定している。多言語翻訳の人員を確保してVRconを利用すれば、訪日外国人を店頭のPepperに誘導することで、観光客と店舗双方に負担なくコミュニケーションを取ることができる。Pepperであれば人と会話するようにスムーズなコミュニケーションが取れるだけでなく、視点移動、Pepper自体の移動も可能となるため、Webカメラを設置するだけではない可能性が生まれる。(関連記事:「おもてなし」にPepper+Watsonがやってくる? - 第3回 Watsonハッカソン)