7月5日~6日、ブロックチェーンとAI(人工知能)をテーマにしたカンファレンス「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2016 TOKYO」が東京都内で開催された。本稿では、デジタルガレージ共同創業者でMIT メディアラボ所長の伊藤穰一氏による初日の挨拶と、続いて行われた基調講演の模様をダイジェストで紹介する。
ブロックチェーンへの期待と課題
デジタルガレージ共同創業者でMIT メディアラボ所長の伊藤穰一氏 |
THE NEW CONTEXT CONFERENCEは、伊藤氏がホストとなり、2005年から毎年開催している年次カンファレンスである。今年は「ブロックチェーンと人工知能が変える未来」と銘打ち、2日間にわたって開催された。
「ブロックチェーンの真実」と題した初日、基調講演に先立ち登壇した伊藤氏は、ブロックチェーンとビットコインの関係について「インターネットと電子メールの関係に近い」と指摘。「ブロックチェーンは分散型のデータベース(台帳)としてある種のインフラとなり、その中でビットコインの決済が行われています。インターネットではまずメールが浸透し、その後メール以外のサービスが生まれてきたように、ブロックチェーンでもビットコイン以外のモノをやり取りするようになれば、新しいサービスが生まれてくるでしょう」と予見する。
ブロックチェーンでは、一定時間内に発生した取引データをまとめたものを「ブロック」と呼ぶ。このブロックの中には、直前のブロックの情報を元に生成されたハッシュ値が含まれており、ブロックは時系列に沿ってチェーン状に連なっていく。ブロック内では契約書など、ビットコイン以外のやり取りデータも扱えることから、ブロックチェーンがもたらす新しいビジネスの可能性には大きな期待が寄せられている。
もっとも、課題もある。1つは、インフラとなるブロックチェーン技術自体が未成熟であり、これを支えるべき人材がビジネス側に偏ってしまったことだ。
「インターネットは、さまざまな研究者やNPO、アマチュアが第三者的な立場から関わることで発展させてきました。それに対し、ブロックチェーンは、先にその上で動作するアプリ(ビットコイン)が作り出されてしまったため、人々の思考がお金を儲けることに集中してしまったのです。結果として、中立的な立場で、どうやってしっかりとしたインフラを作ろうかと考える人が少ない印象があります」(伊藤氏)
また、失敗が許されないことも課題だ。インターネットは何か失敗しても、バックアップしたデータを戻せばもう1度同じ事柄に取り組める。だが、ブロックチェーンの場合はそうはいかない。
「お金や資産を扱っているので、失敗しても戻れません。失敗すると、そもそも信用自体を失う可能性もあります」(伊藤氏)
さらに、人材も不足している。氏によれば、「ブロックチェーンやビットコインの発展に必要な分散技術や暗号技術、経済、決済システムのことを十分に理解しているエンジニアは、世界に数百人程度しかいない」という。これをどうやって増やしていくかは、大きな課題となる。
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