さまざまな都市で観光の足としてレンタサイクルの整備が進んでいる。観光都市では公共交通機関の利用だけでは観光客の細かな周遊ニーズを拾えず、また、交通機関周辺以外の飲食店などへの波及効果が見込めない。そうした問題を解消できる手立てがレンタサイクルというわけだ。
都心でも、NTTドコモを親会社とするドコモ・バイクシェアが運営主体となって江東区と中央区、港区、千代田区の4区に跨がり、レンタサイクルの広域実証実験を行っている。都心では、行政区画と観光客の移動ニーズが必ずしも一致しないため、4区に跨って利用できるようにすることで、利用数の増加を見込む。
こうした自治体主体のレンタサイクル運営は多く見られるが、一方で民間が主導するケースは大規模化が難しく、あまり陽の目を見ない。
クラウドとNFCタグ、アプリで運用管理
そうした状況の中、アーキエムズとリアライズ・モバイル・コミュニケーションズ(RMC)が京都でデリバリー型の自転車レンタルサービスを提供し、市内の新たな交通基盤を作ろうとしている。
もともとアーキエムズは、建築設計、不動産業などで京都を地盤としており、2010年にはRMCと共に無人機によるレンタサイクルサービスを提供していた。一方のRMCはソフトバンクグループの一員で、モバイルを活用したソリューション展開を得意としている。
アーキエムズのパーキングシステム事業部 企画営業課 次長を務める中嶋崇人氏によると、デリバリー型レンタサイクルは京都ならではの事情に合わせたものだという。
「京都の中心部では、自転車屋など個人の事業者が個別に貸し出しており、お店で借りてお店に返却するというスタイルが多くを占めています。この方法では、観光客が宿泊施設から徒歩で借りに行かねばならず、そこに『もっと手軽なレンタサイクルはないのか』というニーズが存在していました。以前より無人機によるレンタサイクルは行っていましたが、今回新たにデリバリー型でのサービス展開を検討したのです」(中嶋氏)
すでに提供していた「シェアバイク ミナポート」を拡張した形のデリバリーサービスは、アプリで「今いる場所」を指定するだけで自転車の貸出・返却が可能となる。返却については回収依頼を行うほか、ミナポートの指定ステーションへの返却も可能であるため、時と場合に応じてレンタルできる。
貸出・返却スポットは京都全域ではなく京都市域の一部に限られる。だが、アプリによる貸し出しはクレジットカード登録によって一日単位(1000円)で行われるため、最終的にホテルへ戻るタイミングなどで近所のステーション、返却呼び出しなどで返却を行えば良い。
中嶋氏が「レンタルステーションまで自転車を取りに行って返すまで、タイムラグが数分~数十分かかる」と言うように、観光客の「時間の節約」という合理化も果たしている。
こうしたレンタサイクルの取り組みは全国で徐々に広がりつつあるが、アーキエムズがミナポートのサービスインから5年で得た感触は「日本人は『自転車屋』『レンタサイクル店』と書いてある場所で借りることが一般的」(中嶋氏)というものだった。自転車屋などのおばあちゃんに借りて返すという意識があるため、無人機拠点もただの駐輪場として見られてしまい、有人ステーションの方が利用率は高い状態が続いていたそうだ。
もちろん、直近では無人機拠点の認知度も向上しているが「外国人観光客は無人機拠点の利用に戸惑いがないように感じられる。日本人の方が躊躇している」とのこと。もちろん、日本という外国語が通じにくい環境で対面せずに自転車をレンタルできる気軽さが外国人にウケていることも考えられる。一方で国内旅行者も一定数存在することから「レンタサイクル文化」のより一層の定着も課題となるようだ。
ただ、このデリバリーサービスを始めることがステーション設置にも一役買う。というのも、ユーザーがデリバリーを依頼するポイントがデータとして蓄積すれば、その付近にステーションの設置ニーズがあると土地所有者への説得材料となり得るからだ。
デリバリーの受け渡しシステムは、スマートフォンと簡易プリンタ、NFCタグで構成されている |
バンで運ばれてきた自転車 |
自転車に取り付けてあるNFCタグをAndroidスマートフォンで読み取り、受け渡しを行う |
こうしたビッグデータ活用は、まだボリュームが足りないため本格的に運用できていないものの、呼び出しの多いホテルへのステーション設置や、アプリの位置情報取得による付近のお店の割引クーポンプッシュといった可能性も考えられるだろう。アーキエムズの中嶋氏は「最終的には京都のオフィシャルのような存在にミナポートを成長させたい」としており、地元企業として地場の発展と収益性の両立を目指すそうだ。
「市内に多数存在するレンタサイクル店とも連携して、コストを抑えつつ共存共栄型が一番良い。みんなで発展していけるように進めていきたい」(中嶋氏)