“電車のダイヤ”のような運用、変えたいけど変えられないが日本企業の本音
「従来、情報システムにおける運用管理と言えば、機械をいかにうまく運転して、電車のダイヤのようにスケジュール通りに正確にかつ安定して稼働するよう維持管理するのが最大のミッションでした。しかしここに来て、そんな運用管理の世界も大きく変わりつつあります」
こう説明するのは、ガートナー ジャパンで運用管理を中心とした分野のアナリストとして活躍する長嶋 裕里香 氏だ。
ガートナー ジャパン リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ マネージング バイス プレジデント 長嶋 裕里香 氏 |
例えばガートナー ジャパンが実施したユーザー調査によると、運用管理のあり方を変える必要があると考えている情報システム担当者の割合は、88%に上っている。
こうした意識の変化にはもちろん理由がある。それは、IT運用管理に影響しているテクノロジーの変化だ。
クラウドやモバイル、ビッグデータの急速な普及により、非常に多くのコンピューティングリソースを必要とする仕組みが登場し、外部リソースを活用するケースも増えた。このような新たなテクノロジーが企業の情報システムに盛り込まれた今、運用管理には刻々とリアルタイムに変動し続けるリソースを最適化するようコントロールしつつ、ダイナミックにサービスを提供し続けることが求められるようになっているのである。
とはいえ、変化の必要性を感じつつも、多くの企業の現場ではまだまだ変革が進んでいないようだ。先の調査で運用管理の現状について質問した結果、「変革が進んでいない」もしくは「変革を進められない」と回答した割合が7割にも達している。
長嶋氏は、「残念ながら日本の企業は変化・変革が苦手のようです。運用管理を変えたいけれど変えられないというジレンマに陥っているのではないでしょうか」と指摘する。
10年で進化した運用テクノロジー
自動実行に代表されるように、運用管理自体のテクノロジーもまた、10年前と比べて大きく進化を遂げている。そしてビジネスを取り巻く環境の変化が激しくなったことから、いかにテクノロジーを駆使してシステムのリリースから変更までのサイクルをスムーズに回すかが問われるようになっている。
さらに、ビジネスのグローバル化の進展を受けて、従来のように日本は日本で、欧州は欧州、北米は北米でと、リージョンごとにバラバラのシステム運用ではスピードを担保できなくなりつつある。そこでクラウドの共通基盤にグローバルシステムを集約するなど、国を越えたスケールでの運用管理も求められている。
「スピードとスケールがともに拡大していく中で、複数のデータセンターやクラウド基盤を適切に運用していかねばならないというのが、変化が必要な要因になっています。これからの運用管理では、クラウド等の共通基盤を活用しながら、多様なニーズに柔軟かつ迅速に応えるサービスを提供していく仕組みを作っていかねばなりません」(長嶋氏)
わかりやすい例がHaaS(Hardware as a Service)だ。ユーザーからCPUパワーが足りない、メモリ領域が足りない、などのリクエストが出れば、速やかにインフラを変更して提供することができる。これはまさしくサービスと言えるだろう。
つまり、システムの維持や最適化という従来ながらのミッションに加えて、顧客のニーズに合わせて常に変動可能なサービスを提供してくということも新たな時代の運用管理のミッションとなるのだ。
長嶋氏は言う。「今や、変更のリクエストに対して、もう”2週間待ってください”などと言ってはいられません。1日、いや30分という単位でインフラ全体を変更しながら運用していくことを目指さねばならないでしょう。情報システム部門には、サービスを提供するエンジンとなって、よりリアルタイム性の高いシステム運用を実現することが求められるようになるのです」