ビジネスを支えるIT環境に必要な要素は何か? 「クラウド」や「モバイル」はもはや常識となっているが、これに加えてGoogleは「人工知能を必要とする時代が来る」と語る。6月14日と15日に東京・六本木で行われた「Google Atmosphere Tokyo 2016」の基調講演をレポートする。

ラーメン屋の世界進出の裏に「Google Drive」

基調講演には、Google Appsを活用する複数の顧客が登場。エレベーター業界からはフジテック、コンサルティング業界からプライスウォーターハウスクーパース(PwC)、飲食業界からはラーメン店「一風堂」でお馴染みの力の源カンパニーが登壇した。

いずれの企業も、Appsを導入して単純に「良かったです」という感想を述べたわけではない。例えばフジテック 執行役員 情報システム部長 友岡 賢二氏は、企業の情報システム部門が「一生懸命現場のためにシステムを構築しました。使ってください」と一方通行なシステム導入になりがちだと指摘する。

これを回避するために必要な作業は「現場を知ること」。机上の空論ではなく、現場の作業を間近で知り、何を求めているか、自分の体温と現場の体温をあわせることで、「課題とツールがぴったり合ってビジネスツールとして活用される瞬間がある」(友岡氏)。

同社は、ハングアウトを活用して、現場のエンジニアが使いたいコミュニケーションにあわせてテキストや画像を会社とやり取りし、大量の資料を現場で確認することなく、会社の技術者に問い合わせることでオペレーションの効率化を進められたという。

フジテック 執行役員 情報システム部長 友岡 賢二氏

同社では現場のコミュニケーションにハングアウトを活用している

一方で力の源カンパニーも、IT化とは離れたポジションにいるようで活用を進めている企業の1つだ。同社の「一風堂」は著名なラーメンチェーン店の1つで、13の国や地域で1日あたり6万人の来店客を抱えているという。ニューヨークで4店舗、ほかにもロンドンやシンガポール、今後はミャンマーやベトナムへの出店を決めており、グローバル化のまっただ中にあるそうだ。

そうした中で同社が直面した課題は「社員教育」。ラーメンは日本食として諸外国でも親しまれているが、こうした実店舗の展開には、単純に自社の”秘伝のタレ”を混ぜ込んだ商品を提供するだけでなく、日本企業として「日本文化」も伝えなくてはならない。

「ニューヨークでは、現地の文化に合わせて『飲んで、おつまみを食べて、それからラーメン』という日本とは異なるダイニングスタイルを提供している。ただ、一風堂として展開するにあたって、伝えなくてはならないコアがある。時差や言語の壁、宗教文化が違う中で、どうやって作り方や”お店造り”そのものを従業員へ教育しなければならないか、課題となっている」(力の源カンパニー 代表取締役社長 清宮 俊之氏)

そこで清宮氏はGoogle Driveを活用。ラーメンの作り方から挨拶の仕方まで、動画やスライドを共有することで課題解決を目指した。これらはファイルを添付したメールでも問題がないようにも思えるが、Drive上で簡単にシェア、編集できるため、地域ごとの課題に対応しやすいというメリットがあるようだ。

力の源カンパニー 代表取締役社長 清宮 俊之氏

Google Driveで場所や時間を超えたファイルの共有、共同編集が行える

モバイルとクラウドに加えて「リアルタイム性」というレイヤーの存在

米Google Google for Work エンジニアリング担当バイスプレジデント プラバッカー・ラガバン氏

Googleサービスの利便性を改めて説明する必要はないだろう。同社の代表的なクラウド製品である「Gmail」は、コンシューマユーザーだけで10億人以上が利用しており、企業導入も200万社を超える。

企業においてもクラウドメールサービスを利用することが前提となりつつある状況だが、この”クラウド化”だけでITの近代化が済むわけではないとGoogle for Work エンジニアリング担当バイスプレジデントのプラバッカー・ラガバン氏は語る。

ラガバン氏によると現時点では、すでに触れた「クラウド」に加えて「リアルタイム性」と「モバイル」が大切な守るべきレイヤーだという。

「リアルタイム性」に関して、そのキーワードを聞いただけではいまいちピンとこないかもしれないが、これこそがクラウド活用の最大のメリットとも言える。クラウドサービスは、個人利用だけでなく、チーム利用の深化にも繋がる。単純に編集したファイルをサーバーへアップ・共有して「生産性が向上した」と喜ぶ時代ではなく、「一つのファイルを共同で編集し、生産性を向上させる時代」になったというのがGoogleの主張だ。

メールにファイルを添付して相手のレスポンスを待つのではなく、ファイルのリンクを送り、相手と共にチャットしながら編集することで、余計な時間をかけずにコラボレーションする時代へ。こうしたパラダイムシフトは、Googleに限らず、Boxなども提唱している。Googleによると、オンプレミスアプリケーションからAppsへ切り替えた結果、20%の生産性向上が見られたという。

もちろん、クラウドとリアルタイム性の組み合わせには、最大の波である「モバイル」も密接に関わってくる。Google Driveのアプリは、10億台のスマートフォンにインストールされており、文字通り”いつでもどこでも”企業のファイルへアクセスできる時代になった。

時間と場所の制約から解き放たれた環境には「セキュリティ」の問題も関わってくるが、Googleは数百名以上の専任セキュリティ担当者を配しており、すべての企業・個人のデータ資産を安全に保護する努力を行っている。かつてはUSBメモリなどにデータを保存して、デバイス自体を紛失するといった事件がよく報道されていたが、クラウドならより安全にデータの共有が可能になる。

「スマートフォンによって、個人だけでなく、ビジネスもすっかり変わった。ユーザー視点で考えた時、どこからでもすぐにデータへアクセスできるし、すべての資産をクラウドで安全に保護することができる。コピーすされることなくセキュアに格納可能だ」(ラガバン氏)

ただ、こうした今までの”うねり”だけでなく、新たな波もやってくるとラガバン氏。それが「人工知能」だ。

>>人工知能を活用した新サービス「Google Springboard」とは?