5月18日から20日にかけて東京ビッグサイトにて「自治体総合フェア2016」が開催された。5月19日に実施されたセッションでは、総務省 自治行政局 地域政策課 地域情報政策室長 飯塚秋成氏が登壇。「クラウド化による電子自治体の推進について」と題し、自治体クラウドの概要や導入事例、国の指針などについて解説がなされた。

自治体クラウドを取り巻く状況

「自治体クラウド」とは、従来のように自治体が情報システムを自庁舎で管理・運用するのではなく、外部のデータセンターをネットワーク経由で利用する取り組みであり、複数の自治体の情報システムの集約と共同利用を推進するものだ。その基本方針については、2015年6月30日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2015」および「世界最先端IT国家創造宣言」のなかで示されている。

また、2015年12月24日の経済財政諮問会議で取りまとめられた「経済・財政再建アクション・プログラム」に、自治体業務におけるクラウド化の推進が盛り込まれたほか、「経済・財政再生計画 改革工程表」では、2016年度から2018年度の集中改革期間において「(地方)業務の簡素化・標準化」と「自治体クラウドの積極展開」がうたわれている。

現在、自治体クラウドも含めた国や自治体業務のICT利活用に関しては、eガバメント閣僚会議の下に設けられたワーキンググループ「国・地方IT化・BPR推進チーム」が中心となって進めている。

政府CIOを主査に置くこのワーキンググループでは、主要な検討課題として「マイナンバー」「業務改革を通じた国の行政運営におけるIT化の徹底」「自治体の業務改革の促進などを目的とした自治体クラウドの積極的な展開」を掲げている。

拡大する自治体クラウドへの取り組み

総務省 自治行政局 地域政策課 地域情報政策室長 飯塚秋成氏

総務省 自治行政局 地域政策課 地域情報政策室長 飯塚秋成氏

これらを踏まえ、飯塚氏は「複数団体共同でのクラウド化である自治体クラウドは、現状の17%から35%まで導入団体が増加する見込み」だと説明する。これに、単独団体でのクラウド化である「単独クラウド」を含めれば、約65%の団体がクラウド化に取り組むと予想されるという。

自治体クラウドは2006年度以降取り組みが進んでおり、参加予定団体も含めると全国で56グループ(構成市町村数347団体)、人口にして約995万人に上る。このうち、例えば神奈川県町村会では、県内全14町村(人口約30万人)における費用削減効果は43%、埼玉県町村会では県内18町村(23町村中・人口約35万人)で費用削減効果44.6%、秋田県町村会が県内全12町村(人口約11万人)で費用削減効果18.4%と、いずれも大幅なコスト削減を実現している。

「総務省としても、自治体クラウド導入の取り組みを加速すべく、地方財政措置などによって支援を強化しています」と飯塚氏は説明する。氏によれば、「少し離れた距離にある団体同士で自治体クラウドに取り組んでいるケースもある」という。

「これはつまり、すべての自治体に取り組む機会があるということです」と飯塚氏は強調し、いくつかの事例を紹介して見せた。そのうちの一つが、人口30万人以上の中核市として全国初の共同利用となる、愛知県岡崎氏と豊橋市の事例だ。

両市は、共同処理事務として、国民健康保険・国民年金システム、および税総合システムのライフサイクル全体を対象に、システム刷新に必要な各種検討を共同で実施。新システムは2012年7月から2015年1月にかけて順次導入が進められ、その費用削減効果として国保・年金システムのイニシャルコストで56%、5年間のランニングコストで25%、トータルで46%という成果を上げたという。

また、県をまたいで自治体クラウドを実施しているのが、熊本県錦町と宮崎県えびの市、高原町、都農町、川南町、木城町だ。これら6市町では、基幹系システムと内部情報系システムに自治体クラウドを導入。その効果として、システム維持にかかるコストの24%削減を見込むほか、電算担当者の運用負荷軽減、業務効率の向上などにもつながったとしている。

「自治体クラウドは、距離の離れた自治体同士でも、どのような規模の自治体であっても取り組むことができるものです。取り組みにはいろいろなパターンがあり、さまざまな可能性があることを知ってほしいと思います」(飯塚氏)

総務省が掲げる”10の指針”

総務省は2014年3月、「電子自治体の取組みを加速するための10の指針」を公表している。その内容について飯塚氏は、「総務省として電子自治体の取り組みについて研究し、自治体などの方々と情報共有するための指標として整理したものです。10の指針のうちの6割は、自治体クラウドの加速を目指したものとなっています」と説明する。

10の指針のうち、自治体クラウドに関わるのは以下の指針1~6である。

指針1:番号制度の導入に併せた自治体クラウドの導入
指針2:大規模な地方公共団体における既存システムのオープン化・クラウド化等の徹底
指針3:都道府県による域内市町村の自治体クラウドの取組み加速
指針4:地域の実績に応じた自治体クラウド実施体制の選択および自治体クラウド導入を見据えた人材育成・確保
指針5:パッケージシステムの機能と照合した業務フローの棚卸し・業務標準化によるシステムカスタマイズの抑制
指針6:明確なSLAの締結、中間標準レイアウトの活用等による最適な調達手法

指針1にある「番号制度」とは、いわゆる「マイナンバー制度」のことだ。地方公共団体には、番号制度の効率的な導入を実現すべく、並行して自治体クラウドに取り組むことが期待されている。指針1~6は、自治体クラウドの導入に際しての検討課題や業務標準化に向けた取り組み内容、留意事項のほか、都道府県に期待される役割などについてまとめられている。

「自治体クラウドには、非常に高い費用削減効果があります。実施したグループはいずれも、少なくとも3割のコスト削減を達成している点は注目に値するでしょう。さらに、業務の継続性を担保できるのも大きなメリットです。近い将来、自治体クラウドは標準的なスタイルになると考えられます。まだ取り組みを始めていない自治体は、ぜひ検討してみてほしいと思います」(飯塚氏)