日本マイクロソフトがITエンジニア向けにマイクロソフトの最新動向を伝える「de:code 2016」が東京都港区のザ・プリンスパークタワー東京で5月24、25日の2日間、行われた。基調講演には、米Microsoft CEOのサトヤ・ナデラ氏が登壇。3月に本国で開催した「Build 2016」で提示した同社の”未来像”を、日本の開発者らに直接伝えた。
ナデラ氏は、スティーブ・バルマー氏の後任として2014年2月にCEOへ就任。クラウド部門担当だったナデラ氏は、CEO就任後も「クラウドファースト」を掲げ、AzureやOffice 365を中心とする「Intelligent Cloud」をキーワードに同社のビジネスモデルの転換を図った。一方で、Windows事業も欠かせぬ存在であり、クラウドファーストと対をなす「モバイルファースト」を合言葉に、9インチ未満のデバイスへのOS無償化やWindows 10へのOSの集約など、大胆な事業再編を進めている。
今回の基調講演でも、軸がブレることなく「クラウド」「モビリティ」というキーワードをプレゼンテーションに散りばめたナデラ氏。だが、それらに付け加えて新たに追加された言葉がある。それは「カンバセーション」だ。
さまざまな技術が組み合わさって成り立つ「会話」
カンバセーションは日本語で「会話」だ。ここのところ、シリコンバレーに限らず、IT業界はこの”会話”にスポットが当たっている。
理由は2つある。まずはバズワードとなって久しい「人工知能」だ。人工知能は、いわゆるニューラルネットワークからマシンラーニング(ディープラーニング)までさまざまな技術で成り立っているが、いずれも自然言語処理にも応用が効く。自然言語処理は、人間と機械のコミュニケーションの基礎として機能するため、”会話”にも繋がる。”コグニティブコンピューティング”のキーワードでお馴染みのIBM Watsonだけでなく、Googleが昨年末にApache2.0の形でOSS化した「TensorFlow」なども、自然言語処理に高い能力を示しており、IT各社は今後もこの分野に力を入れていくことだろう。
一方で、これらと組み合わせる技術として、もう1つ「会話」に関係するものがある。それが「Bot」だ。Botは、人が介在することなくあらかじめ決められた動作を自動的に行う機能のことでロボット(RoBot)が語源だ。Twitterで特定のキーワードに関連したニュースを自動的に配信するアカウントが存在するが、それもBotの一種となる。
日本では、4月にLINEが「LINE Bot API」を開発者向けに試験提供を始めた。また同時期に、アメリカでもFacebookがMessenger上で展開できる「Bots for Messenger Platform」のサービス展開を発表。これらはクローズドコミュニケーションプラットフォームであるため、ニュース配信などよりも、「配達系飲食チェーンの注文」といったEコマースの人からの置き換えに寄った話となる。
また、Appleの「Siri」や、つい先日行われたGoogleの開発者会議「Google I/O」で発表となった「Google Assistant」、そしてマイクロソフトがWindows 10より導入した「Cortana」は、より人間に近い、執事のような存在のBotとして注目を集めている。人間的な会話といえばもちろん、日本マイクロソフトがLINEとTwitter上で運用している女子高生AI「りんな」も忘れてはならないだろう。
Cortanaや「りんな」が出てきたところで話を戻すと、MicrosoftはこうしたBotのような存在が、「これからのコンピューティングを変えていく」と、基調講演の全般に渡ってメッセージを伝えていた。
「最も強力なインタフェースは”言語”だ。すべての生活において、コンピューターが人間の言葉を理解できたらどうなるのか。これは携帯であれ、デスクトップでも同じこと。コンテクストを理解しながら、必要な時に情報を出してくれる。Skypeであろうと、LINEであろうと、対話が会話インタフェースで行われる。OSは、キャンバスの役割を果たすことになる。
もう1つはデジタルアシスタント的なアプローチだが、Cortanaのような存在がリッチな体験を提供できる。レストランやホテルの予約、ピザの注文まで、趣味や組織、ユーザーの世界を理解して、色々な世界を実現できるようになるだろう。私たちはボットフレームワークを提供することで、開発者にさまざまな会話アプリを構築できるようにする。人と会話用キャンバスがあることで、新しいプラットフォームができあがる。私たちのプラットフォームに閉じることなく、FacebookやLINE、Cortanaの連携ができるようになる」(ナデラ氏)
de:codeは、さまざまな分野の開発者が参加しているが、そうした場での「Conversations as a Platform」というメッセージは「コンシューマーIT」の変革だけでなく、「ビジネスIT」にも波及するというマイクロソフトの予測を強く印象づけるものとなった。