「VRコンテンツ」と言っても、すでに一括りにはできないほど、さまざまなコンテンツが生まれています。VR HMDが出てきてからわずか2、3年しか経過していませんが、アプリ開発者らが試行錯誤を重ねた結果、早くもトレンドと呼べるUIデザインが存在しています。
HTCが提供するVR HMD「HTC Vive」には、そうしたUIデザインを体感できる無料アプリケーション「The Lab」が付属しています。今回は、「The Lab」をベースに、基本インタフェースとVRコンテンツのタイプについて紹介します。
基本UI 1 : 移動
The Lab内にはいくつかの”シーン”が設けられており、それぞれのシーンへ遷移するポータル的なシーンもThe Labという名称が付けられています。
The Labの全体像 |
前回紹介しましたが、Viveのルームスケールと呼ばれるサイズのコンテンツでは、ある程度自由に歩けるように設定できます。The Labも当然ながらルームスケールに対応しており、研究所内を歩いて移動できますが、そのほかにもワープによる移動が用意されています。
何もわざわざワープしなくても、従来のゲームコンテンツのようにコントローラを使ってシームレスに移動することもできるわけですが、そうしたインタフェースでは「VR酔い」と呼ばれる状態になりがちです。VRを体験する人が増えてきた去年辺りから、ワープが主流になりつつあるようです。
The Labのプレイ画面 |
ワープは、親指のボタンを押して行います。ボタン押下中は、コントローラの先に移動場所を示す円が表れ、移動可能なら緑、不可能なら赤く色づけされます。緑の円が表示された状態でボタンを離すと、瞬時にそこに移動する仕組みです。文字で書くと分かりにくそうですが、実際は初めての人でも2、3回で使いこなせます。
オリジナルコンテンツの制作でフィールド移動が必要な場合は、このUIを検討すると良いでしょう。
基本UI 2 : コントローラ
HTC Viveにかぎらず、主要なVR HMDでは、コントローラ自体をVR空間上に表示させることができます。この機能はさまざまなシーンで操作性を高めています。
例えば、Viveではコントローラが地面に置かれた状態でもVR空間上に表示させているため、簡単にコントローラを拾うことができます。
高い没入感を求める場合、コントローラを手の形とかにしようというアイディアも出てくるかと思います。ただし、そうしてしまうとユーザーは実際の手との違い(例えば、指の動きがおかしいなど)ばかりが気になってしまうのでオススメできません。Viveコントローラをそのままのかたちで表示しても違和感はなく、むしろ現実からスムーズに入っていくことができますので、よほどのことがない限り、手を作り込むのは避けたほうが良いでしょう。
The Labには、コントローラを隠したシーンもあります。さまざまなターゲットに矢を射るゲーム「Longbow」です。弓や矢を掴むとコントローラが消えますが、手は表示せず、弓や矢が浮いている状態でプレイするUIを採用しています。それでもまったく違和感はありません。
VR空間の没入感においてコントローラ表現は最重要課題ですので、いろいろ試しながら考えてみると良いでしょう。
なお、モノを選んだり掴んだりする動作は、「掴める場合はコントローラに縁取り」して、「人差し指のトリガーを引くと掴む/トリガーを離すとリリース」という表現が一般的です。
空間を体感するコンテンツ
VRという言葉を聞いて多くの方が抱く印象は「別世界を体験」だと思いますが、The Labでは「Postcards」や「Secret Shop」などがその期待に応えるシーンだと思います。
「Postcards」は現実にありそうなどこかの自然の中でロボット犬と戯れる、というシーンです。
Postcardsの様子(Steamのストアのスクリーンショットより) |
一方、「Secret Shop」では、ファンタジーな世界で不思議な空間を堪能できます(こちらはぜひ動画などを探してご覧になってください)。
いずれのシーンも、別世界の空間をリアルスケールで体感することができます。最も分かりやすいVRコンテンツの特徴ですし、一度プレイしたら忘れがたい体験となります。
モノを見るコンテンツ
VRには、「モノを見る」タイプのコンテンツも存在します。触れる体験に重きを置くのではなく、普段は目にすることができないようなものをじっくり観察できるのが大きな利点です。こちらのタイプとしては、「Solar System」「Human Body Scan」といったシーンが用意されています。
3D CGよりも自由に角度を変えて観察できるのは新しい体験です。Solar Systemをプレイした筆者は、太陽に対する地球の小ささが強く心に刻まれました。
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以上のように、VRの世界の特徴としては、現実とは違うところへ移動できるという点と、現実にはないものに触れられるという点の2つがあります。
もし自分の関わっているビジネスで何かしらの3Dデータ(建築CADでも、ファンタジーのキャラクタモデルでも)をお持ちでしたら、それをVR HMDで見るだけでも新しい発見があると思います。
次回以降、そのようなコンテンツの制作の手順について説明をしたいと思います。
事例紹介
今回の事例は、DNP五反田ビルで開催中の「体感する地球儀・天球儀展」(会期は2016年9月4日まで)です。
大日本印刷主催の展示会で、タッチパネルなど、さまざまなデバイスを駆使して、昔の地球儀や天球儀を堪能できます。
この中に「天球儀の中へ」というコンテンツがあり、VR HMDで天球儀を内側から見られるようになっています。現実では見られないものが見られるという、VRコンテツの良い事例だと思います。
なお、展覧会は金曜日、土曜日、日曜日のみの開催。料金は無料ですが、Webからの事前予約が必要です。また、コンテンツによっては年齢制限もあります。
著者紹介
山田宏道 (YAMADA Hiromichi) - 株式会社トルクス 代表取締役
千葉大学工学部卒業。ゲームプログラマーを経て、2005年よりフリーランス。2012年 株式会社トルクスを設立し、コンシューマー向け、ビジネス向けを問わず、さまざまなアプリを受託開発している。
現在、VR関連技術に注力中。2016年4月より島根県奥出雲町に在住。