1999年に「Internet of Things」という言葉が生まれて、はや17年。今現在、IT業界においてIoTという言葉を聞かない日はない、というほどの盛り上がりを見せています。ビジネスでの活用も急速に進んでおり、検討を始めている企業が多いのではないでしょうか。

しかし、多様なデバイスから大量のデータを受け取るIoTでは、これまでのシステムにはなかった要件がいくつも出てきます。構築・見積もりの指令を受け、困惑する技術者も多いのではないでしょうか。

そうした方々にヒントを提示するべく、本連載では、IoTシステムを構築するうえでの基本や注意点について解説していきます。パターン別にアーキテクチャの例をいくつかご提示するほか、ユースケースなども紹介していきますので、ご参考にしてください。

初回のテーマは「果たしてIoTとは何なのか」。IoTの本質を少し紐解いてみたいと思います。

モノがクラウドにつながるということ

「Internet of Things」という言葉は、直訳すると”モノのインターネット”ということになります。一般的には、パソコンやスマートフォンに限らず、様々なモノがインターネットにつながることで、我々の生活やビジネスに新たな価値をもたらすことを指します。

では、その新たな価値をもたらしてくれる”モノ”とは一体何でしょうか。新たに得られる価値とはどのようなものでしょうか。おそらく皆さんの回答はそれぞれ異なるのではないかと思います。

私は仕事柄、様々な立場の方と、IoTに関してディスカッションをする機会があるのですが、みなさん共通しておっしゃるのは、IoTの言葉が指す範囲が広く、実態が掴みづらいということです。

例えば、一方ではApple Watchのようなコンシューマ向けのウエアラブルデバイスの話をされていたと思えば、もう一方では大規模な建設機器の遠隔管理の話をされていたりと、論点や視点がバラバラであることが多々あります。

そういった特性のせいか、IoTを”バズワード”と言われる方も未だに多くいらっしゃいます。

IoTはイノベーションを生むためのツールである

それでは、IoTの本質とは何でしょうか。

私は、IoTは”イノベーションを生む、手段でありツールではないか”と考えています。

クラウドコンピューティングが世の中に登場した際、その形態に懐疑的な人たちが声を揃えて指摘していたのは、必要性でした。今あるデータセンターのハウジングモデルと何が違うのか、VPSと何が違うのか。わざわざクラウドでやる必要があるのか。そのような議論をよく聞いた記憶があります。

しかし、今現在、システムインフラの選択肢として、クラウドは必要不可欠なものとなっています。また、それだけではなく、クラウドの特性をうまく利用したイノベイティブなサービスやビジネスが多数生まれています。

IoTも同じような文脈で、既存のM2Mと何が違うのか、モバイルサービスと何が違うのか、という議論をよく聞きますが、IoTの本質からずれているように感じます。

結局、IoTはあくまでツールや手段であり、そのツールを利用していかにイノベーションを起こすかがIoTシステムの本質であるということです。

そのシステムの実現により、どんな価値が生まれるのか、そしてどのように我々の生活が変わるのかは、IoTを利用する人や企業の立場によって異なります。

ある人は、ヘルスケアに利用するかもしれません。ある人は、決済に利用するかもしれません。その姿・形は、IoTを利用する人によって大きく変わっていくでしょう。

ただ、現実的にみてイノベーションを生む手段の一つとしてIoTがあり、かつイノベーションを生む可能性がきわめて高い手段であるということです。選択肢の一つして使わない手はないのではないでしょうか。

IoTの適用シーン

それでは、IoTを利用した場合に、具体的にどんな価値が考えられるのか、もう少しブレイクダウンするとどのようなIoTシステムやサービスが存在するのかをまとめてみたいと思います。

先ほど説明したとおり、IoTはあくまでツールなので、可能性は無限大です。今後、IoTの特性を活かした新しいシステムやサービスが多数生まれていくると思いますが、現時点で考えうるシステムは概ね以下のカテゴリでまとめられると考えています。

適用範囲 詳細
テレマティクス 自動車や輸送車両向けの情報提供サービス
スマートメーター 電気、ガスなどの利用量測定、コントロール
センシング モノや場所のセンシングデータ収集
リモートモニタリング 設備や機器の遠隔サポート/監視
トレース モノの輸送や移動、組み立て/加工などのトレース
決済 リモート端末による決済
セキュリティ ホームセキュリティや見守りサービス

IoTをうまく利用する

クラウド同様、ITシステムに携わる人は、IoTが全く関係ないとは言い切れないのではないでしょうか。IoTは、新しいサービスモデルの一つの形であり、システム・アーキテクチャのあり方を変える可能性をもっています。

このIoTをうまく利用することがこれからの時代を乗り切るための重要な要素になると思います。サービスモデルとして、システム・アーキテクチャとして、IoTをうまく利用していきましょう。

次回は、具体的にIoTをシステム構築するときのポイントを説明したいと思います。

著者紹介

友松哲也 (TOMOMATSU Tetsuya)
- 株式会社セゾン情報システムズ IoT担当マネージャー / 株式会社アプレッソ プロダクトストラテジスト

データ連携ミドルウェアのフィールドエンジニアとして、数多くのデータ連携、データ統合の現場を経験。2016年にセゾン情報システムズにて、安心・安全、確実なファイル転送ミドルウェア「HULFT」をIoTにも適用できるように進化させた最新プロダクト「HULFT IoT」の企画立案を行い、製造業を中心にIoT案件を推進。主にIoTのデータ転送の課題を解決すべく奔走中。