今後の普及が見込まれるVR HMDはビジネスを変える可能性もある(写真はGear VRのプレスキットから)

先行して商品化していた「Oculus Rift」に続き、この数カ月間で次々と対応端末が発表され、大きな盛り上がりを見せている「VR HMD」。ゲームに限らず、さまざまな分野で対応コンテンツが開発されており、今後1、2年の間に皆さんが触れる機会も増えていくと予想されます。

こうした流れはビジネスにも影響を及ぼすはずです。一般企業がVRコンテンツを提供するシーンも現れるでしょう。職場や現場の雰囲気を伝えるための仮想体験コンテンツ、販売商品等を印象付けるためのマーケティングコンテンツなどでの活用や、現在は考えられないような応用例も登場してくるのではないでしょうか。

立場を変えて考えると、企業のマーケティング部や情報システム部、経営企画部の方々は、もしかしたら近い将来、VRコンテンツ検討の必要性に迫られるかもしれません。しかし、これまで経験してきたWebページとは大きく性質の異なるものだけに、素材としては何が必要で、どういった作業が求められるのかなど、ほとんどの方は想像が付かないのではないでしょうか。開発期間やコスト、提供形態がどうなるのかわからず、検討のしようがないという段階だと思います。

そこで、本連載では、VRコンテンツの作り方について解説していきます。VR未体験の方を意識し、その魅力や動向にも触れながら紹介していきますので、参考にしてください。

VR HMDの仕組み

まずは基本から解説していきましょう。

本稿のタイトルで使っているVRは、ご存知のとおり、「Virtual Reality」の略です。IT史の中では何度か流行したことのある言葉ですが、その意味は今も変わらず、コンピュータを用いて現実感の強い”体験”を作り出す技術を指します。

「VR HMD」のHMDは、「Head Mounted Display」の略。頭からかぶり目前にディスプレイを配置するタイプのシステムで、視界を覆うかたちでコンピュータグラフィックスを見せられるため、圧倒的な没入感を作り出せるという特徴があります。

現在発売されていたり、発表されていたりするシステムはどれも基本は同じ。目の前にディスプレイを置き、顔の向きに合わせて見せるべき映像を表示させる、という仕組みです。

立体視を実現するためには右目用映像と左目用映像を切り分ける必要がありますが、3D映画や3Dテレビなどに比べるとシンプルな仕組みで、目の前にある液晶を単純に区切って右目用と左目用の映像に分けます。そして、それぞれの映像を見やすいようにレンズが配置されます。視力や、左右の眼球間距離(Interpupillary distance :IPD)には個人差があるので、多くのVR HMDにはレンズの位置を調整する機能が備わっています。

VR HMDの概要

VR HMDには加速度センサー、ジャイロセンサー、地磁気センサー等が入っていますが、これらは「顔の向きを検知」するためのものです。コンテンツ側は、VR HMDから顔の向きの情報をもらってそれに合わせた映像を表示させます。

VR HMDでは、「顔の向きの検知」以外にも、「頭の移動(首を前に出したり、横に動かしたり)」「体の移動(前後、上下の動き)」を検知するための「位置トラッキング」機能が組み込まれているものもあります。発表済みの主な機種だと、サムスンが販売する「Gear VR」では対応していませんが、Oculus の「Oculus Rift」、HTC の「HTC Vive」、ソニーの「PlayStation VR」は、それぞれの仕組みでこの位置トラッキングを実現しています。利用するには相応のプログラミングが必要ですが、微細な動きを取り込めるため、ユーザーは没入感が高く、より自然な体験ができるようになります。位置トラッキングという名称ですが、歩きまわるようなゲームでなくても有効です。

そのほか、VR HMDではゲーム機のようなコントローラをはじめ、コンテンツを操作するためのさまざまな仕組みが用意されています。これら操作系については次回紹介予定です。

VR HMDが盛り上がる理由

前述のとおり、VRは過去にも何度か話題になった技術ですが、「Oculus」から始まった今回のVR HMDの盛り上がりは一過性のものでは終わらないでしょう。というのも、VR HMDはハードウェアおよびソフトウェア技術の進歩を活かせる数少ない市場であるためです。

例えば、液晶画面をお考えください。テレビは「4K画質、60fps(frames per second:フレームレート。画面更新頻度)」で多くの人が満足し、スマホも現在の一般的な使用法であれば、「2K画質、400dpi」レベルで十分ではないでしょうか。この数値はあくまでも私見ですが、なんとなくご納得いただけると思います。

しかし、技術の進歩は止まらず、ハードウェアベンダーはすでにそれ以上のスペックの液晶画面を作れるようになっています。そうした”持て余した”能力を存分に発揮できる市場として注目されているのがVR HMDなのです。VR HMD業界のリーダーとなっているOculus Riftでは、2160x1200(フルハイビジョン以上の2K画質)を90fpsで描画することが推奨されています。このことからも技術水準の高さがおわかりいただけるでしょう。

VR HMDでは、レンズで拡大して画面を見せるので、これまで十分だと思われていたハイエンドのスマホよりも高密度な液晶が必要になります。さらに、顔の向きに合わせてタイムラグ無く画面を更新しないと「酔い」が発生してしまうので、通常のテレビより高いフレームレートが要求されるのです。

加えて、高解像度画面を、高フレームレートで表示させるためには、非常に高い処理能力が求められるので、CPU、GPUメーカーも意欲的に参入してきています。

最近では、AMDが「Sulon Q」というVR/AR HMDを発表、さらにVR HMDのゴールは「片目当たり16Kの144fps」と公言するなど、先進的な企業は次の段階に進み始めています。

SULON Q (SULON Qのプレスキットから)

一方でソフトウェア側は、左目、右目のそれぞれ画像レンダリングにまだまだ改善の余地が残されていますが、こちらもそう遠からず解消されるはずです。

現在はまだ高価なPCやスマホが求められるVR環境ですが、昨今のハードウェア/ソフトウェアの目覚しい進歩を考えると、近いうちに間違いなく安価なセットになります。誰もがVR環境を手に入れられるようになれば新たな利用法が生まれます。

既にエンターテイメントのみならず、さまざまな業界で応用が検討されていますが、皆さんの職場においても驚くような活用法が眠っているかもしれません。本連載では、その可能性に気付いたときにすぐに行動に移せるよう、技術解説という側面から支援していきますので、ぜひともご期待ください。

次回は、VR HMD各機種の特徴と違いを紹介したいと思います。

事例紹介

VRは発展目覚ましい技術だけに、日々さまざまなニュースが発表されています。本連載では、各回の最後に、記事執筆時点でピックアップした気になるVR事例を紹介していきます。

今回取り上げるのは、池袋の「SKY CIRCUS」内にある『TOKYO弾丸フライト』と『スウィングコースター』です。

SKY CIRCUSのWebサイト

池袋のサンシャイン60展望台が4月21日に「SKY CIRCUS」としてリニューアルオープン。その中に、VR HMDを使った体験型コンテンツとして、前述の2つが設置されているようです(VRコンテンツの体験は13歳以上に限られています)。

大人の場合、「SKY CIRCUS」の入場料が1,800円。VRコンテンツを体験するには専用のチケットが必要で、『TOKYO弾丸フライト』は600円、『スウィングコースター』は400円です。 このような体感系のVRコンテンツは、周りから見ている以上の身体的没入感があるので、機会があれば一度体験してみることをお勧めします。

著者紹介


山田宏道 (YAMADA Hiromichi) - 株式会社トルクス 代表取締役

千葉大学工学部卒業。ゲームプログラマーを経て、2005年よりフリーランス。2012年 株式会社トルクスを設立し、コンシューマー向け、ビジネス向けを問わず、さまざまなアプリを受託開発している。

現在、VR関連技術に注力中。2016年4月より島根県奥出雲町に在住。