マネーフォワードは4月21日、クラウドビジネスに取り組む企業が集う年次イベント「MFクラウドExpo2016」を開催した。「クラウド化する中小企業経営とフィンテックがもたらす変革」をテーマに掲げた同イベントには多くの参加者が集まり、有識者たちによる講演に熱心に耳を傾けていた。本稿では、満員御礼となったマネーフォワード 取締役 Fintech研究所長 瀧 俊雄氏による講演「2016年度のFintech戦略」の模様をお届けする。
Fintechが脚光を浴びる背景
日本でFintechが注目を浴び始めたのは、2015年のことである。2月に開催された金融庁の金融審議会の中でFintechという言葉が大きく取り上げられ、それに伴う銀行法改正などの話題が関心を集めたのが一因だ。
マネーフォワード 取締役 Fintech研究所長 瀧 俊雄氏 |
瀧氏によれば、その背景には3つのポイントがあるという。1つは、オープンソースの開発環境が整い、サービスの開発コストが飛躍的に低減したことである。Ruby on RailsやPythonのようなオープンソースソフトウェアが登場し、そのライブラリ(コード資産)を活用できるようになったのは開発における画期的な変化だと言えよう。
2つ目は、スマートフォンやタブレットが普及したことだ。これにより、さまざまなサービスや機能をアプリとして配布できるようになった。瀧氏は、「無料の通信インフラが至るところに配置されたようなもの」と評価する。
3つ目には、ユーザーが消費者として力をつけてきたことが挙げられた。これには、スマートフォンの普及も一役買っている。例えば家電を購入する際、昔は家電量販店で店員に勧められた物をそのまま買うのが一般的だったが、今はその場でスマートフォンからネット検索し、最低価格を調べることができる。ユーザーがこうした利便性を必須のものとして求めるようになりつつある状況が、Fintechにとっても追い風となったのだろう。
では、こうした機運が高まるなか、国や政府はどう動いているのだろうか。
金融庁は、2015年9月に発表した金融行政方針の中で、重点施策の1つとして「Fintechへの対応」を掲げている。方針では、Fintechが今後の金融市場に大きなインパクトを与えていく可能性が示されており、それに対応していくための施策として、Fintechの最新動向を把握し、内外の専門家の知見を積極的に活用していくことなどが挙げられている。
Fintechに関しては、政府も産業競争力会議の中で「成長産業として育てていくべき」としており、産業競争力会議 実行実現点検会合の2016年3月31日の資料には、「政府は所轄にかかわらず一体となり、Fintechを成長戦略に取り込む検討に取り組むべき」という旨が記されている。また、自民党も今年4月、政府が4月から5月にかけて策定する成長戦略に反映させるべく、Fintechの促進を求める提言案をまとめている。
「ここまで来れば、予算措置が取られたり、Fintech対応に向けた体制が整えられたりすることが期待できます。昨年から今年前半にかけては、こうした理論面の整備がなされたことで、盛り上がった感がありました。今後は実務的な話になるため、よりシリアスな展開になっていくでしょう」(瀧氏)
Fintechにおいて今、何をするべきか
このように、Fintechは着実に世の中に浸透しつつある。そこで今、企業が成すべきこととして、瀧氏は3つのポイントを挙げた。
まず1つ目は、「本業への付加価値を考えること」だ。自分たちが重視しているものは何なのか。氏は、「それは顧客だったり、社会的な価値だったりすると思います。それらに対して還元して使えるもの、試せるものはあるのかを考えることが重要です」と説明する。
次に挙げられたのは、「プラットフォーマーとしての選択」である。これは、Fintechを使うのではなく、プロデュースする側に回ろうという発想だ。瀧氏は例として任天堂のファミリーコンピュータの成功を挙げ、その要因はサードパーティが参入しやすいプラットフォームを作ったことだと説明。「自社が持つ何らかのプラットフォーム価値に対して、次を作るには何ができるかというのも大事な観点です」(瀧氏)とアドバイスする。
そして3つ目として、「調査フェーズに甘んじない取り組み」を挙げた。「Fintechについて、今調査をしています」という企業は多いだろう。調査は結果を求められないフェーズではあるが、次につながる”種まき”の責任を伴っている。そのため、「その調査には実証が伴っているか?」という観点が重要になる。
「調査は、必ず大きな失敗や”ハズレ”が出るものです。そういう視点で考えてみると、実はそんなリスクが取れない状態にあるかもしれません。それをどうやって変えていくかが大切です」(瀧氏)
これらのポイントを踏まえ、氏は「今後クラウド型の企業はAPIでつながっていくことが付加価値になります」と語り、「もしつながっていないとしたら、それはインターネットに接続していないPCのようなものです。使えるけど、面白くないですよね」とわかりやすく例えて見せた。
今後、自社のサービスが選ばれる理由は何なのか――それは例えば、提携による新しいサービスの提供だったり、連携するアプリやもしくはどこかで勝手に開発されるようなアプリだったりするかもしれない。
「個々のプレイヤーが、今自分が持っている顧客基盤に対して、そういった戦略を考えていくべきだと思っています」(瀧氏)