クラウド登場から丸10年、議論を決着すべき
2016年は、クラウドが登場してちょうど10年になる。クラウド・コンピューティングが持つ概念自体はかなり前から存在するが、今のようなかたちで使われ始めたきっかけは、2006年、グーグル会長のエリック・シュミット氏の発言だとされている。
シュミット氏は、同年8月に開催されたサーチ・エンジン戦略会議のなかで「雲の中にあるソフトウェアにアクセスするクラウド・コンピューティング」と述べ、インターネットを利用した新しいコンピューティング・スタイルのメリットを訴えた。2006年は、Amazon Web Services(以下、AWS)が正式サービスを開始した年でもある。AWSは同年、コンピューティング資源を伸縮性に富むクラウドになぞらえたEC2(Elastic Compute Cloud)サービスの提供を開始した。
その後、さまざまなベンダーがクラウド・プロバイダーとしてサービスを提供し始め、2009年にNIST(米国国立標準技術研究所)がクラウド・コンピューティングを定義したことで、SaaS、PaaS、IaaS、プライベート・クラウド、パブリック・クラウドといった現在のような概念と用語が定着した。当初から懸念されていたセキュリティ面についても、クラウド事業者や業界団体、各種監査法人などによる取り組みが進んだ。現在は、クラウド事業者向け内部統制のためのSOC2報告書や、クラウド・セキュリティ監査の標準規格ISO/IEC 27017などが整備され、ユーザーがクラウドを安全に利用することを担保できるようになった。
ガートナーのバイスプレジデント兼最上級アナリストを務める亦賀忠明氏 |
登場から10年を経たクラウドに対し、企業は率直にどう感じているのか。利用が広がったことで「ビジネスに不可欠な基盤だ」と考えられているようにも思えるが、実はそうでもない。「10年経っても同じような議論が続いている」と話すのは、ガートナーのバイスプレジデント兼最上級アナリストを務める亦賀忠明氏だ。
「クラウド化するのかしないのかといった従来からの議論が続いています。クラウドに危険はないのか、万一の際にどう責任をとるのかといった議論もいまだにあります。こうした議論の背景には、クラウド導入が目的になってしまっていることが挙げられます。クラウドはどうかという議論自体、成り立たなくなってきています。なぜなら、外部サービスは何でもクラウドと呼ばれていますが、実際はクラウドといっても千差万別だからです。ここは具体的に、例えばAWSだったらどうか、Azureだったらどうか、といった具体的なレベルで議論する必要があります」(亦賀氏)