テクトロニクスの冠がついた4万円台のオシロをさっそく入手
テクトロニクスが4万円台のデジタルオシロスコープを発売したというニュースが2012年11月末ごろに発表され、これを使ってみたいと思うようになった。このほど実機を入手する機会を得たので、エンジニアではない筆者がこのオシロを使って、趣味としているクリスマスイルミネーションの点滅回路でテストしてみて、さらに究極の低コストLEDイルミネーションに挑戦しようと試みることにした。これがこのシリーズの主要テーマである。
筆者は技術ジャーナリストだが、オシロスコープは30数年前に使って以来、ほとんど触れてこなかったため、その操作についてはほとんど覚えていない。いわば、素人に毛が生えた程度の知識であるが、趣味として考えた電子回路のテストや、学生が初めて行う実験などのツールとして使えることを体験してみたい。
ジャーナリストなのになぜオシロが欲しいのか。実は筆者、30数年前は半導体のエンジニアだった。その前の大学時代は物性物理学を学んだし、子供のころは、ラジオ少年だった。当時のオシロは高値の花で、個人が買えるシロモノではなかった。
エンジニアを経て技術ジャーナリストになり、ある日、クリスマスイルミネーションを家の周りに飾り付け近所の子供たちを喜ばせている米国人をテレビで紹介しているのを見かけた。この時自分もやってみたいと思い、1995年以降、手作りのクリスマスイルミネーションを毎年続けてきた。もちろん、筆者がイルミネーションを作るからには始めからLEDにこだわった。しかし当時は赤、橙、黄、緑のLEDしか入手できなかった。青色LEDは開発されたばかりでとても個人が買える値段ではなかった。また、赤、橙、黄、緑の各LEDの光の強度もそれほど強くないため多数接続して飾りとした。このため安くて大量のLEDを秋葉原で求め、点滅回路を作ったが、そのチェックにはアナログのメーター式テスターを使った。本当はオシロが欲しかったが、やはり高値の花であった。
こうした背景から、前々からオシロを欲しいと思っており、今回このプロジェクトを始める上で4万円台から買えるのであれば、という想いでオシロを入手したという訳である。まず、計測器ランドにて本連載の主役であるテクトロニクス社の話題のオシロ「TBS1022」を受け取った。段ボール箱に入っているTBS1022は意外と軽く、筆者がいつも持ち歩きに使用しているパソコンが入っているカバンよりも軽いと感じた。
さて、段ボールを開けると、オシロは発泡スチロールのクッションに収められ、その上に薄いマニュアル(英文)とCD2枚、2個のプローブ、その他アクセサリが入っており(図1)、いそいそと段ボールからこれらを取り出す開封の儀式に臨む(図2)。
日本語マニュアルはCD-ROMにて提供 - 電源オンで工場出荷状態を確認
冊子の説明書(マニュアル)は英語で書かれているが、CD-ROMには日本語のマニュアルが入っている。日本語のCD-ROMにはpdfで取り扱い説明書や初期設定手順などが書かれている。テクトロニクス社によれば、紙のマニュアルよりもCD-ROMの方が便利だという意見が多いため、だという。紙ベースのマニュアルは設定が終わると読まないが、CD-ROMにしておけば、不明な点が出てくるたびに簡単に検索できるというメリットがあるほか、パソコンにCD-ROMのファイルを移したり、ディスクを手元に置いておくことが多いからだろう。
さてもっとも気になるのがスペックである。このオシロは決して安かろう、悪かろうという製品ではない。サンプリング周波数は最も安いTBS1022でさえ、500Mサンプル/秒ときれいな波形を描く。測定できる周波数帯域は25MHzとまずまずだ。このシリーズの最高機種は1Gサンプル/秒、150MHz帯域で13万8000円(税別)である。テクトロニクス社の名前を冠した製品でこうした価格設定は個人の趣味としてはうれしい限りだと思う。
まず、マニュアル通り、電源スイッチをオンにし、デフォルト設定ボタンを押した。ここでオシロは工場出荷状態になる。マニュアルでは、オシロに入っている信号発生器を利用して標準的な波形をチェックすることと書かれている。
そこで、プローブをセットして出力波形を見ることにした。このオシロには2チャンネル分の波形を観測できるように、プローブが2本付属している。1本のプローブには1/10のアッテネーション(減衰)がデフォルトで設定されている。過電圧を抑えるためである。プローブの先端は信号線、外側から出ている線が接地線(グランド)にそれぞれつなぐようになっている。もう一端はBNCコネクタに接続する。
手始めの標準波形チェック - オシロの基本操作
まず、チャンネル1の標準波形をチェックする(図3)。この標準波形は、内蔵のシグナルジェネレータから発生する1kHzのパルス波形で、ピーク値が約5Vのパルスである。プローブの外側の線を最初にグランドにつなぎ、プローブの先端を信号線に接続、メニューの黄色いボタン1を押す。ボタン1はチャンネル1という意味である。ただし、この状態ではまだ波形はトリガーされない。測定器パネル右側のオートセットと書かれた位置のボタンを押すと、自動的に繰り返しパルスをトリガーし、表示してくれる。ここで、画面左に1>と示されているのは、チャンネル1のグランドレベルを示している。
連続のパルスではなくパルス1個だけじっくり見たい時はスケールのツマミで調整するのではなく、1パルスの形をしたスクリーンの右上から2番目のボタンを押す。同様に、立ち上がり波形、降下波形*)は、調整しなくても上から3番目、4番目のボタンを押すだけで済む。この時、右下には立ち上がり時間、降下時間が表示される。オートセットにしないでマニュアルでトリガーをかけたい時は、「前設定に戻す」のボタンを押せばよい。ただ、私はオシロの専門家ではないため、オートセットボタンは非常に便利だ。
チャンネル1のチェックが終わると、チャンネル2のチェックへと進む。チャンネル2も1と同様に、BNCコネクタを2に接続すると同様の波形を観測できる。この2つのチャンネルはそれぞれ独立していながら、共に500Mサンプル/秒の波形を取得する。
これでまずは、オシロのチェックを終えるが、次回以降は実際に作った回路をテストしてみる。クリスマスイルミネーション用のLED点滅回路である。
ちなみに、操作の様子は動画でも公開しているので、気になった人はこちらも見ていただけると幸いである。
テクトロニクスの4万円台のオシロスコープTBS1022を使ってみた(その1) |
注:エンジニアはfall timeを立ち下がり時間、パルスのfall状態を立ち下がり、ということが多いが、「立ち下がり」という言葉は日本語としておかしいため、降下と呼ぶ。これに対してrise timeやrise状態はエンジニアの言うとおり、立ち上がり時間、立ち上がりと呼ぶ。
(次回に続く)