データが持つ価値を経営の武器に据え、仮説と検証を素早く回すことで、確度の高いアクションを展開していく。こうしたデータドリブン経営によって、企業はビジネス環境の激しい変化に迅速かつ柔軟に対応し、競合他社に対する優位性を獲得することができる。では、どうすればデータを本当の経営資産にできるのか――。そのカギは、多種多様なデータの連携・統合・分析・活用を可能とするビッグデータ統合にある。
データとは「ビジネスに価値をもたらす戦略資産」
グローバル競争の激化、スピーディーな技術革新、消費者ニーズの多様化など、ビジネスを取り巻く環境が激しく変化していく中で、企業には大きな変革が求められている。最も急がれるのは、従来の「勘」と「経験」に頼った意思決定から、理論的・科学的な裏付けを持つ「仮説」と「検証」に基づいた意思決定への転換だ。従来の姿勢のままでは、社会の変化のスピードに柔軟に対応する競争力を身に付けることができないし、市場に変化を与えることができない。
このような状況の中で、大きな鍵を握っているのがデータである。もちろん、データの重要性が語られるのは、今に始まったことではない。「ヒト・モノ・カネ」とともに4大経営資源の1つとして「情報」が位置づけられており、その源泉であるデータも重視されてきた。
ただし、今まで意識されていたのはシステム面であり、常にシステムが起点となって、あらゆるアクションを起こしていた。
実際、これまでのITシステムはERPに代表されるように、業務の効率化や自動化といったアプローチのもと、企業活動の生産性を向上することに主眼が置かれていた。つまりはコスト削減のアプローチである。データは、あらかじめ定められたプロセスを実現するための素材にすぎなかった。
Talend株式会社 マーケティングディレクター 寺澤慎祐氏 |
そこに「データドリブン経営」というコンセプトを提示しているのが、オープンソースによるデータ統合基盤ソフトウエアの開発を手がけているTalendだ。同社の日本法人でマーケティングディレクターを務める寺澤慎祐氏は次のように語る。寺澤氏は光産業創成大学院大学でITマネジメントの客員教授も務めている。
「どんな企業もデータを持っています。これらのデータはもともと、それ自体が非常に大きな可能性を持っています。新しい事業やサービスの創造、競合他社に対する差異化の実現など、ビジネスに新たな価値をもたらす戦略的な資産としてデータを活用していくことが、今後の経営における重要テーマとなるのです」(寺澤氏)
社内外の多様なデータを有機的・複合的につなぐ
データドリブン経営を実現するのが、ビッグデータを含むデータ統合だ。現在、企業が手にすることができるデータは、拡大している。従来、基幹業務システムで処理していたのは、リレーショナルデータベースに合わせて形が整えられた「構造化データ」と呼ばれるデータである。しかし、現在の企業が保有しているデータ全体を見渡してみると、オフィス文書やメールデータ、設計データ、画像/動画データなどの「非構造化データ」が70%以上を占めると言われている。
それだけではない。FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアで交わされている投稿やコメント、ブログ、ニュースなど、インターネットからも膨大なデータを入手できる。各種センサーやスマートメーターなどの機器からは、次々とマシンデータが生成されてくる。政府や自治体、公共機関などからは、各種の統計データや気象情報、交通情報などが「オープンデータ」として公開されるようになった。
このような社内外の多様なデータを有機的・複合的につないでいく、すなわちビッグデータ統合によって、今までになかった新たな価値を生み出すことが可能となるのである。
「例えば、これまでの小売業ではPOSデータを使って個々の商品の売上を管理し、最適な在庫調整や自動発注、配送の最適化などの業務に生かしていました。しかし、そのデータからは、既存の商品が過去にどれだけ売れたのかという実績しか見ることができません。そこに例えば、ソーシャルメディアでにぎわっている特定商品に対する評判、気象情報、トレンド情報などを組み合わせることで、どんなことが起こるでしょうか。過去にまったく扱ったことのない新商品の販売予測を行うといったことも可能となるのです。ビッグデータ統合がもたらす価値によって、ビジネスそのものが大きく変わっていくのです」(寺澤氏)
ビッグデータ統合のために克服すべき課題とは
もっとも、ビッグデータ統合にはさまざまな困難が伴うのも事実だ。寺澤氏は、次のような5つの課題を挙げる。
第1は、「量と処理速度」である。ビッグデータ統合においては、急激に増加する、粒度の細かいデータ(ソーシャルメディア情報、通話記録、銀行取引、クリックストリーム、気象情報など)を大量かつ瞬時に処理する必要性が出てくる。ビッグデータは、「インタラクションデータ」とも言い換えられ、トランザクションデータが生まれる過程で発生する、詳細なデータのことだ。例えば、これまで流通業の企業が注目してきたのは、商品名や販売個数、価格などの購入データである。ところが、ネット通販に目を向けてみると、Webサイトのログには消費者が購入に至るまでの経緯が、クリック1つひとつのレベルで記録されている。このように、粒度の細かいデータを有効活用することがビッグデータの本質となるのだ。
第2は、「データソースの拡大」である。分析や活用にあたって統合すべきビッグデータの対象は、構造化データから非構造化データへとどんどん拡大していく。また、データソースそのものが、自社、グループ会社、取引先、政府、公共機関、オンプレミス、クラウドなど、多岐にわたる保有者と場所に分散している。これらの多様なデータソースと接続するための手段が必須となるのである。
第3は、「複雑性」である。1つのデータソースの中にも、構造化データと非構造化データが混在している場合がある。また、集約、解析、計算、統計などの処理が行われ、その結果もまた新たなデータとして蓄積されていくなど、複雑性はさらに増していく。
第4は、「適時性」である。情報を連携・統合するのは全てリアルタイムである必要はないし、しかるべきタイミングでなければいけない場合もある。ERP、Webサーバ、ソーシャルメディア、税情報など、データソースごとに最新情報が反映されるリードタイムが異なっている。したがって、ビッグデータ統合を行う際には適切なタイミングを考慮しなければならない。
第5は、「整合性」である。しばしば直面するのが、氏名などで使われる漢字の新旧変換、半角と全角の混在など、日本語ならではの整合性の課題だ。そのほか、日付や金額の書式の違いが問題となるケースもある。
「そして何よりも、ビッグデータ統合においては『量より質』がより重要であることを忘れてはなりません」と寺澤氏は強調する。
ノイズを多く含んだデータを大量に集めて分析しても、信頼性の高い結果は得られない。実際、ソーシャルメディアのデータを組み込んで分析を行う際にも、数十万件のコメントを拾うより、質の高い少数のやりとりに着目したほうが、的を射たアクションに結びつく可能性が高い。ビッグデータ統合による影響力は、量を求めるよりも、質を追求したほうが大きくなるケースが多いのだ。
裏を返せば、こうしたビッグデータ統合の課題をいかに克服していくのかという道筋にこそ、データドリブン経営を成功させるためのヒントが隠されている。