「奇跡のダイエット法」ともいえる目新しい方法が生まれては消えるなど、ダイエット情報は常に多くの人の注目を集めています。最近だと「温め」系のダイエット、「糖質制限」などが注目されていますね。
座業の多いクリエイターの中にも、「痩せたい!」「痩せなきゃ」が口癖になっている人もいるかもしれません。ところで、自分が「痩せるべき」体なのかどうか、ちゃんと把握していますか?
この連載では、忙殺され身体を酷使しがちなクリエイターが「健康的に創り"続ける"」ための知識を公開。敷居が高いイメージになってしまった「健康」を広く手の届くものにすべく活動されている鍼灸師・若林理砂さんが、忙しいクリエイターにもできる「健康への第一歩」につながるエピソードを語ります。第8回は、ダイエット法の流行と、「痩せる」前に考えたい事柄を、若林さんの体験を交えて語っていただきました。
若林理砂
1976年生まれ。鍼灸師・アシル治療室院長。高校卒業後に、鍼灸免許を取得し、エステサロンの併設鍼灸院で、技術を磨く。早稲田大学第二文学部卒。2004年、アシル治療室開院。著書に「養生サバイバル」「安心のペットボトル温灸」など。好きな漫画/アニメは「進撃の巨人」「FSS」「おそ松さん」。一昔前は腐っていました。「どの宮崎アニメにも必ず出演している」顔立ちといわれています。夫はクーロンズ・ゲートの人。TwitterID: @asilliza
「温めてダイエット」、こんなうたい文句の食べ物や健康器具が、あちらこちらに溢れています。実際、鍼灸師は「温めれば痩せるんでしょ?」とよく聞かれます。その答えは、「いいえ、そんなことはありえません」。
この話題がらみで、この間受けたある雑誌社からの取材に激怒したお話をまず、しましょうかね。取材の趣旨は「体質別の養生とあたため方、それと食事を紹介したい」というもので、それに沿ったお話をしました。でも、後日完成した記事のテーマは「温めダイエット!」だったのですよ。「痩せる」なんて話、ひとつもしなかったのに!
これにはわたくし、激怒。「このまま記事を出すなら監修を降りる。そうでなければ全部変更してください」というメールにあちこち真っ赤に書き入れた原稿を添付して送り返しました。最終的に、当初の趣旨通りの記事に仕上がったので、よかったのですけれどね。
「あたためてダイエット」の理屈として、「体を温めると基礎代謝が上がる」という主張がされることもありますが、これもウソ。どちらかと言えば、寒いところに体を放り出したほうが基礎代謝量は上がります。これは、生命維持に必要な体温が決まっていて、それよりも下がらないよう必死で体温を作るから、寒いところでは代謝が上がるのです。そのため、水泳は消費カロリーが多くなる側面があるのです。かといって、「冷やしてダイエット」なんて健康云々以前の問題ですが。
あの手この手の「ダイエット法」、効果は…?
鍼灸院を営んでいると、他にもダイエット法に関する様々な質問をされることがよくあります。朝バナナダイエット、スムージー、サプリメント、マッサージ……。もうね、いいと思うんだわたし、言い切っても。そういうものだけでは、痩せられないのです。
例えば、画期的なダイエット方法だと注目された「糖質制限」。短期的に見た目だけ変えるなら効果がありますが、元の食生活に戻すと一気に体重は戻ります。また、長期間にわたって糖質制限食を続けるのは健康上のリスクがある可能性が高い、と指摘する海外の論文(※1)も出されており、あまりお勧めできる方法ではないのです(その研究では、糖質制限を続けた群において、死亡率を1.12上昇させる結果になっていました)。
そもそも、糖質制限食って糖尿病患者さんの療養のための方法だからね。痩せるとか、そういう目的で行うものじゃないのですよ。
自分の体格を「ちゃんと」知る
「ダイエット」を気軽に取り入れたがる人は多くいらっしゃいますが、果たして自分が本当に「痩せる必要があるか」、ちゃんと把握しているでしょうか?まず「BMI」を使って、自分が太っているかどうか、ちゃんと測ってみましょう。
BMIの計算式:体重(kg)÷((身長(m)×身長(m))
日本医師会が適正体重とBMIを自動計算できるページを公開していたりもするので、こうしたWebサイトを利用するのもいいですね。
BMI、という単語、学校の授業などで聞いたことがあるかと思います。これは、肥満度を表す世界共通の体格指数(BodyMassIndex)。肥満による病気のリスクをはかる研究にも使われています。
ただ、BMI、ひいては体重は、低ければ低いほど、少なければ少ないほど良いというものでは決してないのです。基準は各国で異なりますが、日本肥満学会が定めた基準では18.5未満が「低体重(やせ)」、18.5以上25未満が「普通体重」、25以上が「肥満」となっています。
アニメや漫画のキャラクター設定では、身長・体重が書かれていることもありますね。それをもとにBMIを計算すると18以下の「低体重」、つまり痩せすぎになっている場合がちらほら見受けられます。昨今はTwitterなどSNSが発達したことで即座にツッコミが入ったりしますが、「痩せている方がカッコイイ/かわいい」という意識はまだまだ根強いのだな、と思わされます。
今どき、BMI18.5以上でないと、ファッションショーのランウェイモデルにも採用されないようなご時世です。「痩せすぎは美しくない」というのがトレンドだって、知っておいたほうがいいと思います。
「地味なダイエット」のススメ
痩せすぎも問題がありますが、上記のBMIが「肥満」判定となってしまった「痩せる必要がある」人にとって、ダイエットは健康上の切実な問題です。
私自身が提唱しているのは、無意識で食べてしまうものを意識化してやめて、無意識でできる程度の動きをプラスしてやる方法です。一日あたり100kcal程度の「無駄食い」を減らし、同時に100kcal程度の運動をプラスしてやると、それまでと比較して、一日の消費カロリーが200kcal減になります。これを続けると、一カ月で約1㎏程度の減量になるのです。
この方法を「養生ダイエット」と命名し、最初は、Twitterにある私のbotにリプライを投げると自動で返信が来る方法を使って行っていました。
ですが、Twitterで行うとなると周囲の人にダイエットしていることがばれるから……ということで、専用の手帳に書き込んで行う方法も用意することに。
とても地味なダイエットですが、確実に体脂肪を減らすことができます。きちんと行っていただいた方からは数kg減らした報告をもらいましたし、かなりガッツリ取り組んでいただいた方の中には15㎏減らしたという方もいらっしゃいました。今はまだ2月。夏本番の8月までは半年くらいありますので、しっかり取り組めばかなり効果は期待できます。
繰り返しになりますが、もともとBMIが標準の方はこの方法では痩せられないですし、やせる必要もないですからね。
美しさと日常生活を送るのに十分な体力の両立を目指すとなると、BMIの数値は20~21程度はないと厳しいです。特に妊娠希望の方は21を上回る程度になるように目標を設定しておいた方がベターです。
「奇跡のダイエット」みたいな情報には敏感に反応してしまいがちですが、いったん立ち止まって考えてみると、定期的に体重を計る習慣が無いなど、意外に自分の体に意識が向いていないことは多いものです。まずは一度、身長と体重を確認して、自分のBMIを計算してみてくださいね。ちなみに私は身長165㎝、体重は56㎏、BMIは20.57ですよ!
参照リンク
Low-carbohydrate diets and all-cause and cause-specific mortality: Two cohort Studies ※1低糖質ダイエットに関する原因別死因率を調査した論文(英語)